十三の一 大姐の二胡
文字数 2,572文字
ゴツン!
少女の声とともに、赤色の野球帽が回転しながら俺の前に着地する……。
(頭がぼんやりする。起きたことがリアルに感じられない。人が死んだことさえ現実感がない。なのに式神達の消滅を思いだして震える。
当たり前だ。ここは現実の世界でないのだから。いまの俺は、隣りあわせた世界の住人なのだから)
わお!
(女性が二階建ての屋根ほどの高さから飛び降りる。両足で動作なく着地する。
小柄で少しずんぐりした体形だ。母親と同じほど、五十歳ぐらいだろうか。黒髪に赤いシャツ、黒色のパンツ。この人も魔道士だろうけど……、それよりあいつらだ)
アンディの体が青い炎に包まれていく。
黒猫を蹴っ飛ばす。
(ドーンは寝たふりを続けやがるが、カラスとリュックを抱えるなんて、いまの体には大荷物だ。上海って言ったよな。思玲の言動からして、かなりの力をもつ魔道士なのだろう。
……百年前といえば大正明治辺りか。どんな依頼のためにここへ現れて、俺達を救ってくれたのだ)
俺は尋ねる。思玲の顔がひくつく。
沈大姐が少女を見おろす。
次回「絶対的おばさん」