十の二 分かち合った光
文字数 2,619文字
木札をしまい、箱の両脇をしっかり握る。
小鳥が顔の前に浮かぶ。
桜井がせわしく横根のもとへ飛ぶ。
その隙に箱を服に放りこむ。
小鳥が俺を見上げる。小さな目に悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
夢だと思うよね? だからスカイツリーの一番上とか、例のあそこのアトラクションにただで何度も乗ったりして、そりゃすごく楽しかった。ミッキーの肩にとまったら大勢が写真を撮っていたし。
でもだんだんと不安になって、ヤバ、これは現実だと感づいた
服にもぐろうとする。小鳥の姿が消え、桜井の人としての魂とじかに触れあう。
本物の桜井の声がした。目があうと、人間の桜井がみるみる目に涙を浮かべる。俺の胸へと飛びこんでくる。
彼女はお互いが全裸など気にしない。座敷わらしなんかではない本物の俺は、ぎこちなく彼女を受けとめる。
彼女の声も受けとめる。髪の香りを感じる。
妖怪ではない俺が心に強く決める。
遠慮がちに手をまわしたまま心から願う。彼女はさらに頭をもたれる。泣き笑いの顔で俺を見上げる。
当然だし。
青い光をすべてかき集めろと、さっきまで操られていた。でも、そのおかげでここに来られた。
ここに来て、これまでに起きたことをみんな知った。松本君がどれだけ頑張っていたかも、松本君がどれだけ私を思っていたのかも
俺の問いかけをスルーして、
桜井は強い顔になり俺からでていく……。
あの爆発で俺にも青龍の光が入った。だから桜井と心が調和できた。俺の思いが旋律を奏で、桜井がこたえて、彼女に入りこんだ不協和音は消滅した。
白猫が俺の目を見る。
俺は感動なんかしていない。もっと強い感情を、あのとき横根に抱いた。
白猫の丹念にブラッシングされたような毛並みは一連の出来事で見る影もない。
白猫が枝から飛びおりる。アスファルトに軽やかに着地する。
俺も飛びおりようとして躊躇する。浮かべることを思いだして、ふわふわと追いかける。俺は幼児みたいな妖怪変化だったと再認識しながら。
俺に張りつき小鳥が笑う。
正門方面へと横根を追う。彼女は女子高生の幽霊と向きあっていた。
幽霊が蒼白な顔で笑う。……こいつらは執着し続ける。おそらく消えるまで。
俺は木札を取りだし路上近くに降りる。
車が静かに通り過ぎる。ヘッドライトは俺達を照らさない。
次回「暴露」