四十四の一 シャツの中の白猫
文字数 3,301文字
櫓の上から、楊偉天が俺達を見おろし笑う。
楊偉天が杖をかかげる。そして降ろす。
心がつながる横根へと尋ねる。
跳ねかえしでも姿隠しでもいいから張ってくれ。
独鈷杵ではじこうとするが、迂回して頭上の白猫に直撃する。
俺も叫んでやる。オーロラの上の空は、さきほどより星がひろがっている。
俺と藤川匠の対角線上だろ。
年老いた獣人が闇のなかで溶けていく。
俺は横根へと命じる。腹の中で、白猫がびくりとする。
上空からの老いた笑い声。
鏡を持たぬ老人が上空から冷淡に見おろす。
叫んでしまう。結界を独鈷杵で切り裂き、なんとか脱出する。穴の開いた屋根へと着地する。……ちぎれかけた足は治っていく。
二度見した目に激痛が走る。
藤川匠が俺へと声かける。
座敷わらしの残滓が訴える。
包む闇が告げる。
(中学生である横根が俺から顔をそむける。……彼女が甘えているかなんて、甘えて生きてきた俺に分かるはずがない。
甘えゆえに激情する。夕立の寺で露泥無が言ったよな。それが悪いことなのかも、俺には分からない)
だから俺は俺のなかで彼女を抱きしめる。
キキキ。貉、完全なる闇とかになっとけよ
次回「死なせないよ、絶対に」