六の一 各駅停車の旅

文字数 1,693文字

1.5-tune



デデンドドン、デデンドドン
(異形になってしまったのに、我が身を案じていられない。妖怪になっても気になるのは金銭的問題。この半月の経費はリクトのカードもふくめて後日清算するそうだが、後日とはいつだろう)
キャンキャンキャン
シャー
……。
 湯水のように使われたお金の心配をしながら、吠えつづける子犬(手負いの獣だ)をなだめ、すれ違う人に威嚇しまくる白人女性(白虎もどき)をなだめる。
やっぱひどくね?
いやなら飛べ
……。
 駅前でカラス(朱雀くずれ)をキャリーバッグ(遺失物として受けとった)にしまう女の子(魔道士)への周囲の目にはらはらさせられる。乗り換えて、ようやく故郷へと続く各駅停車に乗る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
ムスッ
クーンクーン
アセダク
……。
(ふた悶着ぐらいあったが、あとは一時間ちょっとの電車旅。すでに全員ぐったりだ)
オヤスミノトコロ、スミマセンネ
エクスキューズミー? カナ
(なのに途中駅で鉄道警察が二人乗り込んでくる。一直線に彼女達の四人座りのシートにやってきた。

 JRの駅でリクトが脱走しかけたのと、フサフサが駅員の胸ぐらを持ちあげたのが原因に決まっている。

 俺は動く電車の窓から逃げだそうとするフサフサをなだめ、スーリンの横に浮かんで対応をアドバイスする)

ペットは既定のサイズに収納したら運搬できますよね?
ヨクシッテイルネ
(女の子がはにかみを混ぜながら対応する。完璧な演技だ)
この人は日本語が苦手なだけで、ジャパニ、日本人には威嚇しているように見えてしまうのです。体も大きいので、スキンシップのつもりが大騒ぎになって、すみませんでした。


……パスポートだと?


どう答える?

(俺の心に声をかけてくる)


私の手違いで――

私の手違いで荷物と一緒に送ってしまい、それを取りにいくのです
……。
この人は環境保護のNPOに所属しています。アメリカ人です。捕らえると国際問題になりますよ
(余計なセリフを足すな)
こいつ、いえ彼女の名前は……フーサです。私は松本思玲
(しれいと日本語読みした)
たぶん小学校四年生です。大峠駅で家族が待っていますので、お気づかいは結構です。

……なるほどな。

迎えに来る祖父は警察OBです

(いまは老人ホームにいる祖父の名と最終階級を伝えさせた)
ヘエエ
こまかいことは駅でお爺様にお聞きください。

……しっかりしているとよく言われます。まるで二十五歳だなんて

アリガトウネ、キヲツケテネ

センキュー、グッバイ

ベー
やれやれ
(こんな愛らしい子ににこやかに直視されたら、最終的には警察も笑みを返して去るだけだ。不必要ににらみをきかす大柄の白人女性が真横にいても。

しかしスーリンの声は、人の言葉でもこっちの世界にスムーズに伝わる)

ガタンゴトン、ガタンゴトン
 このやり取りには肝を冷やしたけど、電車は俺の故郷へと着実にすすむ。
スースー
倍疲れるし、マジで

ガーガー

鳴き声だすなよ
 俺はやはり人の目に見えず、ここまで騒ぎすぎた子犬は段ボールですやすやと寝て、キャリーケース(こっちを選んだ)からドーンのぼやきがうるさいぐらいだ。
……。
イライラ
(人の目に見える残りの二人はかなり目立つ組み合わせだ。でも地元の爺ちゃんやおばちゃんが好奇心で声をかけようが、露骨に無視されるか歯をむきだされるだけだった。

 俺達はかまわずにいてもらえたら、それぞれが心の声を交わすだけの静かな一団だ)

今回の哲人は前回より大きい。日本でいう小学校二三年生ぐらいだな。蛍光灯もクーラーも平気で良かった。あいかわらず肝が据わっているし

へえ

(スーリンはそう言うけど、人であったときよりは辛い。サングラスと上着が欲しい)
それとな、いつまでも私をカタカナで呼ぶな。心には字まで伝わるからな
(たしかに。だったら今後は思玲と呼ぼう。

……いまは、この女の子は俺より頭ひとつぐらい背高いな。俺も人の目に見えていたら姉弟にでも見られただろうか)


はいはい

その年ごろで現れるとはな。生意気な口もきくな
(思玲はまだ俺をにらんでいた。
 俺こそ小学生の女の子に横柄に扱われているのだけど)
ガタンゴトン、ガタンゴトン



次回「失われた記憶の整理」

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