二の二 知らない知り合い
文字数 3,046文字
俺は頭の上にいるらしい化け物に同意を求める。
リクトがスーリンへとうなり声をあげる。
少女が残酷な笑みを浮かべ、テーブルに座る。
スーリンが頭のタオルをはずす。
ドーンは青ざめた顔で立ちあがっていた。
チェンが生きていた。あいつらと合流する。
この大馬鹿は何年も前の使命を果たすために、その伝令をしやがった。大陸に飛び、ヤンのもとに飛んだ(ヤンウェイテン……、ラスボスだ)。
連中の任務を片道だけ完了して、お役が済んだと私のもとへ飛んできた。
この大馬鹿のあとを追えば、私にたどり着く
スーリンがドアを強く閉める。段ボールの中の子犬は大騒ぎだ。
俺は、成人の体を凝縮したほどに重たい木箱を赤い布につつんで抱えながら、運転手に諸々の件を謝罪し、助手席で行き先を指示する。翌日には伝令として、ここに戻ってくるとは思わずに――。
まだ水に飢えていた。駅前近くのコンビニに立ち寄り、でたところでミネラルウォーターを飲み干す。交番が目にはいる。駆けこんだところで相手にしてもらえない。それくらいは分かっている。
ゾワッ
その男も俺に気づき、湿った地面から立ちあがる。
男が確信する。
……逃げろ。
俺は駅へと走りだす。定期入れを改札に左手でタッチする。振り向くと、あの長身の男がいやでも目立つ。
俺だけを見て笑っているが、ふいに振りかえる。
ホームに立ち、ひたすら電車を待つ。……あの男は人間ではない。あっちの世界に浸かりかけている俺でなくたって分かる。スーリンがあげた異国の名前を思いかえす。
ボスとナンバー2以外は人の目に見えない大カラスらしい。それに親玉は爺さんで、(お互いに)天敵だったナンバー2は美麗な女性だと言っていた(見えないカラスかもしれないらしい)。ならば、あいつはなにものだ? 俺の名前を知っているあいつは。
階段からばたばたと気配が来てびくりとする。私服の中学生達が駆けこんできただけなので安堵する。
郊外への普通電車が到着する。停車するなり俺は乗りこむ。もう一度ホームを振りかえる。
灰色の影が見えた。そいつはあらぬ限りのスピードで駆けてくる。
閉まりかけた電車に飛びこみ、入口近くの俺へと飛びかかる。
衝撃と動きだした電車の振動に俺は倒れる。転んだまま腹の上を見る。
うす汚れた白く長い毛に覆われたでかい猫がいた。こいつも俺の目だけを必死に見ている。
次回「運命的な再会」