三十二の三 断るなよ
文字数 2,263文字
……?
あおむけの俺を背に立つ思玲が、ちらりと振りかえる。
アチー
大蔵司にせっつかれて、シノは去った。九郎も一緒だ。
リクトと琥珀は、飛び蛇退治のついでにケビンを探しにいかせた。手負いの獣を御するために、和戸にも行ってもらった。昼間だし、鴉が騒げば歯向かわないだろ
常識的に考えると、異形になって人に戻れば傷が消えた、などとラッキーにはならない。現実の世界では肋骨四本砕けたままだ。
夜を迎えるまえに最低限の治療をしてもらえ。もしかしたら内臓もひとつぐらい破裂しているかもしれないからな
脂汗を垂らしながら体を起こす。夏奈の笑みを思い浮かべる。
やっぱり具合悪い
(一人で箱を囲んだとして、俺のもとに白い光は飛ばないだろう。でも座敷わらしになった俺が助けを呼んで、白虎の光はまたも外を目ざすかもしれない。飛びこむ先は横根に決まっている。
それに法董がいる)
異形である女の子が俺を見つめかえす。
……なるほどな。異形を消し去る風火輪だ。僕は完全な闇になれるから平気だけど。
ニヤリ
あり得ぬことに純度90の白銀でつくられた伝説の刃。呼ばれ名は
張麗豪は死者の書だけでなくそれも奪った。南京の連中は隠ぺいしているが、あの寺院の鼻つまみ者が逃亡を手助けしたな。その見返りに――
横根が手をあげる。
(少女から天珠を手渡される。
……横根には珊瑚がある。穢れていたこの天珠は、横根が身を削って浄化した。琥珀は、ドロシーおそらく途中から思玲が持っていた天珠を手にでかけただろう。
いまなお誰もが守られている。横根はシルキークォーツほどに薄れてしまったけど)
ドロシーが立ちあがる。西に傾きだした太陽が、彼女の顔に影をつくる。
雲が隅で暗く崩れてきた。どうせ今日も夕立だ。ドロシーがそっぽを向きながら俺の前に立つ。
次回「本堂の二人」