四十七の二 これぞ、どろどろな関係
文字数 1,767文字
うわあ
(無死の前足が広場をはらう。あばら家が消える。俺は舞台の下に逃げこむ)
ひい
(同時に破壊されて、丸太に潰される。……劉師傅の護布は物理攻撃には効果が半減する。痛いけど妖怪だからこれくらい平気だ。
残骸から這いでる)
う、うわあ
(暗紫の液体が大量に飛んでくる。おそらく毒だ。護布を体にまとう)
(叫びとともに掃射音。俺は頭から地面に落ちる。護布から外を覗く)
わあわあ
(本堂で俺の肋骨を折った抑えめの術。護布にこびりついた無死の毒液が飛ばされる。どちらも多少顔に当たったが、新月の妖怪だから余裕だ)
あぶない
(無死のおぞましい爪が向かってくる。ドロシーを引きずり逃れる。
無死はでかいだけじゃない。小さい俺をピンポイントで狙える。俺は松本哲人なのに)
タッタッタ
タッタッタ
(楊偉天が無死の頭上に乗る。その胸もとで、彫刻された魔物がよだれを垂らす。
つまり無死は俺にある青龍の破片に気づき、俺を狙いだした。楊偉天が神殺の鏡の力を使おうと、なおも従っていない。その鏡に閉ざされた魔物の顔の生気が増すだけだ)
ゾワッ
(蛮龍である貪……。楊偉天にこれ以上鏡を使わせてはいいのか?)
タッタッ
川田が横根さん達を連れて逃げた。リュックごとだ。
スティックは不要だけど、七葉扇はあの中?
タッタッタ
いや
(指揮棒は俺が壊して、扇は思玲に戻った。手もとには独鈷杵とリミットの取れたMP5。充分だけど無死相手では厳しい)
タッタッタ
(楊偉天が至近から朱色の術を喰らわせても、不死身の無死は悶えもしない。青龍と俺を交互に見るだけだ)
タッタ…ピタ
(龍が吠える。あらためて無死が夏奈をターゲットに決める。中空の龍へと浮遊する。龍が無死を尾ではらい、頭を地面に下げる)
タッタ
(人への邪気のこもった笑い。彼女こそこっちの世界の存在だ)
(藤川匠へと人除けの銃弾を乱れ撃つ。獣人が盾になる。ドロシーが手早く弾倉に息を吹きかける)
(リミットがはずれた術。強烈だが精度が落ちた。獣人が倒れるが、俺にも当たる。妖怪だろうがかなり痛い)
タッタ
(龍が激怒する。雷がドロシーに直撃する。緋色のサテンが守ると信じ、俺は夏奈へと走る。釘を踏んだが気にしない)
ヨシヨシ
(藤川匠へと、また紅色の術が飛び交う。奴は剣で防戦一方。足止めされている)
夏奈! 俺を乗せて! 俺と一緒に無死を倒そう
(龍のひげに飛びつく)
(巨大な力におもいきりはらわれて、林の向こうまで飛ばされる)
(樹木を折り、岩にぶつかり、バウンドして転がる。また沢に落ちる。……今度は枯れ沢だ。体中が打ち身だ。妖怪でなければ即死だったぞ)
(新月の力がうずき、体が回復していく。俺はまだまだイケる。足に刺さった錆びた五寸釘を抜く。いまは妖怪だから破傷風の心配は多分なし――)
もうかよ。
(それに、それはドロシーを倒しに行く意味。呼びとめろ)
(コンテナ車ほどもある龍の顔が覗く。須臾を経て、龍が頭を降ろす)
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