十二の一 忌むべき祭り
文字数 2,780文字
『ホホホ、哲人君。これは偶然だ。お前がこの世界に戻ってきたうえに護符を手にしたことは、なんら関係しない』
『前夜祭に鉢合わせるとは、あいかわらず不運だな。キキキ、おとなしく横で見ていろよ』
アンディが呼ぶ。
『契約に関わる者がいるから、残念ながら姿を現せない』
『用件だけ言わせてもらおう。――成熟前の姿に戻りし王思玲よ』
『松本哲人が隠すものを奪ってくれないだろうか。これまた残念だが、祓いの者に見返りはない』
思玲が目をかざしながら強く言う。
『ならば見せしめだ。ロタマモ先生、さえずちゃってください』
『あーあーあー、久しぶりだから緊張するな』
『まずは魔獣の気を散らさせる蛸坊主からにするか』
アンディとシノが手を耳に当てうずくまる。思玲がドーンの両頬(耳?)を挟んでぶらさげる。
『思玲。話をちゃんと聞けよ』
シノの悲鳴があがる……。フサフサが思玲の手からドーンをひったくる。
『夏梓群 。英名はドロシー。世にも稀なるサラブレッドの娘……』
『本当に稀少だぞ。その力は本来遺伝しないからな。前例など、あの頃の奴らさえ忘れた大昔だ』
『ホホホ、か弱き少女達に必要あるものか。ともかく梓群よ、うらむ相手が違う』
『そして気高くか弱き思玲よ。今回ばかりはうなずいてもらいたい。犠牲を増やしたくない』
『お前はそう言うよな』
『ロタマモ、アンコール!!!』
『キキキ、残った異形は、契約相手を除外すれば三匹だ。次はどれかな? カウントダウンしてやろうか』
思玲の声が弱まる。俺だって、こいつらをゆるせない。
手負いの獣に命ずる。獣は戸惑うだけだ。うす曇りの闇が林を包むだけ。
『哲人君、教えておこう。私達に関わるのは、現在進行している契約に抵触する。そもそも、その魔獣でも見つけられまい』
『思玲よ。哲人君だけ逃そうなどと心に思わないでくれ。ならば、残りの全員が消える』
『ホホホ、思玲よ。強きお前にそれ以上を望めるものか』
『梓群、泣いている場合じゃないぜ。次はお前に依頼するのだからな』
『四玉の箱を思玲から奪った拍子に地面へ落とせ。そしたら「誰か拾って~」と泣き叫べばOKだ。キキキキキ』
ヨタカさえも鳴きやんだ。
次回「独唱は続く」