二十二の二 わたつみの玉
文字数 2,003文字
草鈴が聞こえて、そちらに向かう。
大学の手前で早々に思玲と合流する。
思玲が草鈴を投げる。インコがくちばしでキャッチする。
二羽は連なり去っていく……。
思玲が荷台にあったロープで、狼に仰々しいひもをつける。
俺は浄財の一万円札を何枚かワイパーに挟む。二枚だけ服の中に残しておく。
横根に触れたが猫の感触のままだ。もしかしてこのまま白猫になってしまうのかと、また不安になってくる。
自分の首に直接結ばれた黄色と黒の太いロープを見ながら、川田がぼやく。
思玲に破壊された正門は封鎖されていて、通用口だけが通れる。夏休みの土曜であろうと理工学部の院生は休みなしみたいだが、警備員との押し問答を見ると入場制限されているみたいだ。
俺達は信号脇から頃合いを見さだめる。人の目に見えているのは、目つき悪く周囲に気をくばる思玲だけ。俺だけなら校内にいけるが、彼女が来るまでは横根をおもてにだしたくない。彼女も川田を見守っているわけだし、一緒に残ることにする。
フサフサの言うゴンゲン様をでても、横根の人としての気配が伝わってこない。木札もまだピリピリしている。血に穢れた異形とずっと同じ場所にいるからだろうか……。
血は消えていた。思玲が押しつけていた赤い玉のおかげか?
正門へと目を向けると、近辺から人間がいなくなっていた。
思玲が人の耳には聞こえない声をかける。扇を握りしめながら通用口を見つめる。川田はすでに門のあたりか。
扇で頭上に円をえがき、おのれの姿をかき消す。
おなかへ声かけても返事などない。詰所の時計を覗くと四時近くだった。
次回「記念館の大欅」