一の二 揺れる脳みそを編集
文字数 2,243文字
ひえええ~
ただ、この声は……、つまらなさそうにしているあの娘の声だ)
足もとをさすられたような不快感に俺は転ぶ。あやうく手をつき地面を見る。当然だけどなにもいない。でも、そんなはずはない。
シノが俺を見おろしている。もう一人はなにもない地面へと微笑んでいる。
俺はショートヘアの女に声をかける。もう一人が舌を打つ音がした。そうだ英語だ。
川田という人のアパートを指さす。
俺は英語で降伏する。あきらめた振りをする。
俺はポケットを探る。これの説明をしたとき、スーリンは性根の悪そうな笑みを浮かべたな。
俺は返事もきかずに口もとに手を寄せる。あの朝にポケットに入っていた草笛をくわえる。
音などならない。なのに二人の顔色がみるみる変わる。奏でろと、もっと強く息を吹きこむ。
シノがつぶやく。彼女のカバンからスマホが鳴る。
シノが怯えた顔で走りだす。
ドロシーが逃げていく相方に呼びかける。とまどいながら、背中から迷彩柄のリュックをおろす。手を突っこみ、やかましい警報音をとめる。更になにかを取りだそうとする。
リュックを片方の肩にかけて、俺へと投げキスをする。
「再見」と彼女も去っていく……。
“香港魔道団。大陸で一二を争う魔道士団だ。
私は金銭的問題だけでなく、ヤンウェイテンとの関係も疑われているらしい。あのジジイは連中になにかやらかしたな。
ふざけた話だが洒落にならない。香港に連行されてまた喚問だ。
ゆえに逃げるぞ”
俺は反対側へと踵をかえし全力で走る。吐き気すらする頭痛のうえに、爆弾のような太陽が容赦なく照らしつける。
深入りすべきではなかった。いつだったかスーリンが、言いだしにくそうに切りだした話まで思いだす。
“ドロシーからの話、やはり告げておくべきだな。
桜井は龍になった。香港が言うのだから間違いないのだろう。ただヤンには従っておらず、微細な厄災さえ起こしてないようだ。
しかしだな、師傅が恐れていたとおり、あちこちの魔道士がこの国に来ている。たとえ私の力が戻ろうと立ちゆかぬ次元になってしまったな。
だが、お前にその気が戻ったのならば、無論付き合う”
次回「見た目ほど若くない」