二十九の一 弔いの祈り
文字数 2,843文字
3.5-tune
(八月中旬の太陽が空き地に逃げ水を湧かしている。横根の体はかすかに透けている。俺も立ちあがり、すべきことをぼやけた頭で考える。
まず水、そして横根への説明、横根へのお詫び……。それと水、夏奈を迎えにいく)
折れたくちばしに体重を落とす。
両手で護符をもち、流範の首へと刺す。羽根が地面を叩き、爪が中空を裂く。俺にはどちらも届かない。あえぐくちばしがもげかけて、根もとに尻を寄せる。
容赦のない日差しの下、横根が俺へと歩む。
あの若者の魂を、彼女に見せたくない。
大カラスの残滓がみるみる消えていく。太陽が二人を照りつける。
琥珀が流範が消えたもとへなにかつぶやき、自動車へと去っていく。たぶんだけど、誰もが救われた。
大蔵司が俺の腕をアルコールで拭く。
ふたを開けて渡される。
(心配そうな彼女に見守られ、両方とも飲みほす。ちょっとだけひと息つけた。ようやく自分の体を確認する。パンツは裂けたままだが、体に傷は残っていなかった。
大蔵司が手をかざしたおかげだろう。張麗豪や楊偉天がおのれへとかざし、傷を消したように。アルコールとタオルを借りて体の血痕を消す)
獣人男を縛っていたしめ縄が消える。
次回「出発進行」