六の二 座敷わらしと飛べないカラス
文字数 2,400文字
反対側に向かう。頭に乗せたカラスは重くはないが、じわじわとこたえてくる。
正門に横付けされた警備会社の車の上を素通りする。会社帰りの人達が脇道を歩く。彼らを上空から追い越しても思玲は見つからない。
『途方に暮れているか』
『無理もないよな』
校内に目を向けると、うす暗い図書館が見える。こっちに思玲が来るはずがない。空中で反転する。
へっぴり腰で片脚づつ乗る。
俺も並んで腰かける。
樹木に接すると気持ちいい。街灯の明かりを、イチョウの葉がはばんでくれる。
月が半分ほどにカットされて浮かんでいる。メロンみたいだ……。
(おたがいの姿がおぞましく変わっていようが、違和なく会話を交わせられる。これも楊偉天の術によるためか。そうだとしても、それだけであるはずがない。……ドーンなら飛んでくれそうな気がする。だから、すこしだけ真実を告げよう)
思玲が、人は鳥になっても飛べないと言っていた。それでか、朱雀系の人達はニワトリが多かったらしい
そらした目を覗きこんでくる。カラスも目はつぶらなんだと、余計なことに気づいてしまう。
ドーンの漆黒の瞳に、俺がはっきりと映っている。ざんぎり頭の男の子が俺を見つめている。横根が言ったように保育園児ぐらいの俺だ。
ドーンはちょっとだけ間をおいて、くちばしをひろげる。
思玲が扇をだす……。
お前らは結界慣れしていないから、心が圧迫されない薄いものしか張れぬ。
朝になれば使いの鴉が飛びまわる。そんな結界など、そいつらさえ感づく。
質より量だ。それから逃げても遅い。そして、あいつらは平気で人を巻き添えにする。
強いパッションがあれば、雑魚の異形でも人を襲える。道沿いなどに潜っていられるか。
そもそもお前が外をうろついていたら即座に見つかる
正門方面へと歩きだす。
思玲は追ってこない。
次回「座敷わらしと純白猫」