六の二 座敷わらしと飛べないカラス

文字数 2,400文字

(弁償させないとな)
(交差点から先のあふれる光も、この高さだと気にならない)

よい眺めじゃね? 川田だったら、ドーンがドローンとか言いそうだし。


帰る前に必ず飛んでやる。そんで師傅さんに、その記憶だけは残してもらお

……。(思玲はなかなか姿をださない。さすがに破壊した校門前から去ったかも。おそらく町中には行かないから、さきほどの側道へ行くか)
フワフワ

(いないな)

はぐれるのヤバくね?
うん。(こっちは霊がいたから避けたかな)
 反対側に向かう。頭に乗せたカラスは重くはないが、じわじわとこたえてくる。


 正門に横付けされた警備会社の車の上を素通りする。会社帰りの人達が脇道を歩く。彼らを上空から追い越しても思玲は見つからない。

(まいったな)フワフワ
『途方に暮れているか』
『無理もないよな』
ビク

(心への呼ぶ声が聞こえた……)

 校内に目を向けると、うす暗い図書館が見える。こっちに思玲が来るはずがない。空中で反転する。

フワフワ(さまよい続けて、さすがに疲れてくる)

ちょっと枝に降りて

できればチェンジしたいけど。……もうすこし寄って

 へっぴり腰で片脚づつ乗る。
ふう

 俺も並んで腰かける。

 樹木に接すると気持ちいい。街灯の明かりを、イチョウの葉がはばんでくれる。

 月が半分ほどにカットされて浮かんでいる。メロンみたいだ……。
(休んでいる場合ではない)

思玲達を探してくるから、ここで待っていて

無理無理、マジで無理。猫とか来たらマジでヤバいし
(たしかにドーンを一人にできないか)

了解

やっぱ哲人は強いな。放っておけば、今も一人で行ったよな?
(おたがいの姿がおぞましく変わっていようが、違和なく会話を交わせられる。これも楊偉天の術によるためか。そうだとしても、それだけであるはずがない。……ドーンなら飛んでくれそうな気がする。だから、すこしだけ真実を告げよう)


思玲が、人は鳥になっても飛べないと言っていた。それでか、朱雀系の人達はニワトリが多かったらしい

ガガガ、チキンかよ! カラスのがまだましだし。ガガガ

でも飛ぶのむずそうだぜ。そもそもコツが分かんね。川田や瑞希ちゃんは、四つん這いなんて赤ん坊の頃から慣れているのに

だからこそ飛んでやろうぜ(飛んでくれよ)

言われるまでもなく。


そんで、はやく夏奈ちゃんを見つけないと。いつまでも堅い三人だけだと疲れるし。カカカッ

ドキ

ドーンは、桜井のこと許せるの?

そりゃ思うことはあるけどね……
 そらした目を覗きこんでくる。カラスも目はつぶらなんだと、余計なことに気づいてしまう。
哲人の本気の想いを抜きにしても、はやく一緒にならないと。そんで、みんなで人間に帰るじゃん。こんなのあまり楽しくねーし
……。

 ドーンの漆黒の瞳に、俺がはっきりと映っている。ざんぎり頭の男の子が俺を見つめている。横根が言ったように保育園児ぐらいの俺だ。


 ドーンはちょっとだけ間をおいて、くちばしをひろげる。

あいつの記憶から俺は消えているのかな
(彼女のことだ。俺までやるせなくなる)

俺と桜井だけが人間だったとき、みんなのことを忘れた。……あの子だけはドーンのことは忘れないよ。

(根拠などどこにもないけど)

だね。あいつとは丸三年だし。過去最長だし。

誰も俺のことを忘れるはずねーし

お前らは夜になろうと涼むだけか
ドキ
ビク
あいつらは必死に探しているだと? 川田の目立てがあてにならぬのが、よく分かった
ヤスンデヤガル
ムス

思玲はくたくたになっても、私達を門の外まで連れだしてくれたんだよ

フワフワ

(最初に言ってくれないと、結界をまとって移動する労苦など分かるはずない)

かまうな瑞希。私が術をだすのに身を削るのを何度も見たのに、あやつには所詮は他人ごとだったのだ

俺が引きとめたんだよ。

でも、まだ飛べない俺を置き去りにして、みんなを探そうとするし。それもひどくね?

ウー

全員がそろったのだから、もういいだろ。

桜井も探してやる。ドーン、今度は俺の上に乗れ

(さすが川田。横柄な優しさだ)
犬の上にカラスが乗ったら速攻で拡散じゃん。俺は思玲の肩に乗るのが一番おさまりよくね?

哲人は充分に休んだから、まだまだ和戸を乗せられる。


めぼしい場所は見つけられたか?

(今夜を過ごす隠れ家か。思玲達を探す以外になにもしていない)

いいえ


本当に涼むだけだったのか
ムカ(頼まれた覚えなどないのに)


すみませんね。俺一人で探しにいきますから、結界の中ででも休んでいてください

当然だ。

お前達もこっちに来い。私も消えるから、この場所を忘れるな

ヒョコヒョコ
ピョンピョン
 思玲が扇をだす……。
(マジに俺一人で行かせるつもりか?)

結界にこもるだけでOKじゃないですか? 俺は木の上にでもいますよ

お前らは結界慣れしていないから、心が圧迫されない薄いものしか張れぬ。

朝になれば使いの鴉が飛びまわる。そんな結界など、そいつらさえ感づく。

質より量だ。それから逃げても遅い。そして、あいつらは平気で人を巻き添えにする。

強いパッションがあれば、雑魚の異形でも人を襲える。道沿いなどに潜っていられるか。

そもそもお前が外をうろついていたら即座に見つかる

(そこまで並べたてるのか)分かりましたよ。

ジャアネ、フワフワ

私も行きます
瑞希、遊びではないぞ。哲人だから頼んだのだ
横根はみんなといるべきだよ。俺は人には見えないし、護符もあるから平気らしいけど。(おそらくそう言うことだろう)

一人より二人のがいいよ。絶対に。


それに、もう狭いところはやだ

 正門方面へと歩きだす。
さきほどの野良猫がおるかもしれぬ。お前達が独断ですることに、私は手をわずらわさない
 思玲は追ってこない。
(やはり彼女は疲れているのか。横根を断るべきだけど、そりゃ二人のがいいに決まっている。町なかをうろつくだけだし……)


遠出はしませんから。横根、一緒に行こう。フワフワ

うん。スタスタ





次回「座敷わらしと純白猫」

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