三十四の二 レッドリスト
文字数 2,554文字
ひさびさに車の音がした。ライトに照らされないように、歩道の端になるべく寄る。白いバンは通り過ぎる。歩道の野良猫になど気づくこともなかっただろう。ましてや物の怪などに。
白いバンが前方で乱暴にUターンした。猛スピードで戻ってくる。俺の前で急停車する。
俺は上空に逃げだそうとするが、
クラクションを思いきり響かせられる。
人の作った轟音だ。俺の体は跳ねあがり、脳みそがぐらぐらと揺れる。混乱している俺の前で、バンはガードレールをこすりながら切りかえす。俺へとハイビームを照らす。
比喩でなく目が溶けそうだ。いや溶けたかも。
……車が突進してきた。必死に避けるが、フロントに跳ねられる――
人の作った衝撃が体を伝わる。車が店舗に突っこむのを感じる。俺は路上に転がる。俺の身をかき消すべく、全身を激痛が襲う。
峻計が俺から去っていく。
俺はアスファルトを這う。暗闇を探る。
(助けを呼びたいけど、妖怪としての力などかけらも残っていない。砂粒ほどの力なんて、弱った心ではうごめきすらしない。
……やっぱり、あいつはすごいな。あきらめず幾重に考えてくる。黒い光がなくても、こんなにも無様に俺を消し去れる)
同時に強烈な衝撃を受ける。俺は地面に落とされる。
劉師傅が亮相の構えをとっていた。
劉師傅は俺を抱えあげようとする。でも俺はふわりとすべる。
……昨年の十二月。訪れの早い夕暮れ。
そのときの笑みを思い浮かべる。
劉師傅は朴訥と言う。
俺の中の妖怪にインプットされる。この人も守るべき存在だ。
次回「座敷わらしと祓いの者」