十の三 暴露
文字数 1,602文字
自転車が車道を通りすぎる。俺達になど気づきもしない。
横根がすがるように俺を見つめる。どんな言葉を返せばいいんだ?
遠くに人影が現れる。大きな犬を引き連れている。桜井の安堵を感じる。
ふたつ離れた街灯の下で思玲達が立ちどまる。
街灯に照らされた女魔道士と狼の背に乗ったカラス。それを見る桜井は愉快そうだ。
白猫はそのまま歩きだす。川田達をすり抜けようとして、思玲に首根っこを持ちあげられる。
白猫は爪をだして暴れるが、思玲は気にもとめない。
それぞれの手から白猫とリードが落ちる。
彼女は俺にも怒っている。その気配だけで分かる。それに、
白猫がまた歩きだす。
そして走りだす。
ドーンが川田の背にくちばしも使って這いあがろうとする。
川田が腰をおろす。立ちあがり、俺に目を向ける。
背を向けて走りだす。
オートバイがカラスを乗せた狼とすれ違いハンドルが揺れる。どちらもなにもなかったように駆けていく。
彼女もあとを追う。
俺と桜井だけが取り残される。遠くの車の音さえかすかな闇とともに残される。
小鳥がまた肩に乗る。
幻を相手に俺はうなずく。みんなに伝える時間なんてなかったと、言い訳だけを考えながら。
……今は何時だろう。妖怪になっても時間が気にかかる。でも感覚で、どれくらい時が経ったかぐらいは分かる。
次章「2-tune」
次回「ミツアシたるミカヅキ」