十三の二 青い鳥のさえずり
文字数 1,877文字
青い鳥がうつむく。俺達はおのずと目をあわせる。
狼の吠え声がコンクリートに挟まれた非常階段に響く。
川田の言うとおりかも。あと一日足らず。御託を並べるときも悲運を嘆く時間もない。なのに、俺達にできることがあるのか?
(川田が横根をとがめた。……それぞれが怒りや怯えを露わにしている。俺は一点にだけ心が支配される。
青い玉にかけられたもうひとつの光。青龍を意図的に弱めるための透明な光……。
俺は一年生の冬を思いだす。――外は木枯らしだったかな。俺へと真顔で言いかえしてきた桜井……。
もし今も人であったなら、彼女はきっとあの時と同じ必死な顔でみんなを見ている。
朝日は踊り場の底まで照らさない。青龍となるべきものであった桜井の言葉を最後に、しばし沈黙が流れる。
朱雀くずれのドーンがくちばしを開く。
カラスが俺に真っ黒な目を向ける。ふがいない俺は、誰かが切りだしてくれるのを待っていた。
か弱き精霊もどきの俺は相づちを打つ。浮かんでいるのに立ちあがる仕草をする。
白虎のなり損ないの横根も四肢をあげる。
玄武のでき損ないの川田がうなり声をあげる。
前足を手摺りにかけて半身を持ちあげる。小鳥を舌で舐め、コンクリートへと体を戻す。俺達を一瞥する。
黒い狼が階段を降りていく。四本足には段差がつらいとぼやきながら。
白猫が駆けだす。よちよち歩きの狼を追い越して軽やかに消える。
蒼い鳥が踊り場から空へと飛びだす。
ドーンが俺によじ登る。頭にしっかりと乗るのを待って、俺は階段をふわふわと降りる。
妖怪である俺の勘が訴える。
一方的なタイムリミットまで、まだ一日以上もある。
次回「幻影少女」