二十八の二 歌うな吠えるな誘うな飛ぶな
文字数 2,799文字
アドレナリンに頼り空へと叫ぶ。
接するほどにフクロウの顔がいきなり現れる。あざけた笑いを巨大な目に浮かべる。
腰を抜かした俺を見おろしながら、ロタマモは空へと羽ばたき消える。
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
アンジーザイホーヒーフーミーヨー
(スマホを握った琥珀は傷だらけだった。頬をざっくりとえぐられ、フードは噛み裂かれて、たんこぶみたいなツノが見える。ほかにも怪我しているのか、浮かんだ体から血が地面にしたたり消えていく。
琥珀も俺を見ていた)
『大鷹二羽をあしらった流範よ。力勝負でお前に勝てるものは、そうもいまい。
琥珀よ。邪魔が入ったから用件を急ごう。哲人君に箱を開くように頼んでもらえないだろうか。そうすれば哲人君の傷も――、
あぶないな。私だけを狙わないでくれ』
(日のもとならば、闇にまぎれない流範は見える。黒い疾風が飛んでいる。奴にもロタマモが見える。
箱を晒してから俺を殺せば、青い光は玉に戻る。流範は四玉と箱一式必要だが、ロタマモは青龍の玉だけを運べばいい。藤川匠のもとへ)
流範が羽ばたきを弱め、姿を見せる。
腹いせのような突風が吹き、起きあがった女の獣人が薄らいでいく。
白人の男が女の肩に手をまわす。俺の流れた血が靴に溜まっていることに気づく。暑いのに寒くなった。