三十二の一 再集結

文字数 2,434文字

























 

わあ

(目を覚ましたら、大蔵司京が巫女装束に着替えていた)
なんでタイミングよく起きられる?
(車から追いだされる)
 
アチー
平気
あっ、ちょっと元気になった?
……うん

(横根と琥珀達は外にいた。ブドウ畑脇のさもない空き地。お婆ちゃんの眠るお寺のすぐ手前だった)

ジョー

 俺はふらふら歩くが自分の体でないようだ。隅で立ちションしているうちに、みんなは車に乗りこむ。最後に乗車すると、自分の血とかの汚れとにおいで吐きかける。

車ごと買い替える。台輔に選ばせよ
プ、プー♡
 さっきまで彼女が着ていたTシャツに着替えさせられる。女性サイズだから窮屈だ。彼女の運転でもたもた進みだす。
飛び蛇がまた来た。フィリピン生まれっぽい

 琥珀が助手席からつぶやく。

さっきのは大陸育ちって言ったよな。

チチチ、俺でも見つけられた。こいつはたいしたことなさげだが二匹もいたら面倒だ。昼間のうちに処分しておけよ

(九郎も助手席で言う。

 俺も空を見る。蛇なんて見つけられない。青空と入道雲だけだ)

飛び蛇って?

新月系の知恵なき異形だよ。主観なく、ありのままに視覚、聴覚、嗅覚で捉える。

偵察や伝令にもってこいだが、僕に見つけられたら終わりだ

ニヤ

(ちいさい牙をだして笑う。

 一番暑い盛りだけど、農家のお爺さんお婆さんは畑で頑張っている)

 
(カラスが一羽低空を飛んでくる。ドーンが迎えにきた)
モタモタ
(お寺には車が一台停まっていた。ピンクの車はこすりそうになりながら停車する)
九郎は速すぎだった。次元が違うし
(車から降りるなり俺の頭で騒ぐ)
ここの住職は外回りが三件あって、今日は大忙しらしいぜ。て言うか、流範とロタマモを倒したってほんとかよ。哲人のレベルもヤバいし。

……て言うか、瑞希ちゃん、ひさしぶりだけど透けてね?

えっ、そうだったの。自分では分からない
(横根が自分の手のひらを見つめる。気づいていると思って指摘しなかった)
ドーン君とひさしぶりなんて思えないよ。あの朝からずっと夜だったから
(横根は冷静だ。俺なんか記憶が戻ったら溶けかけたのに。横根は強いから大丈夫)
ズンズン…!
私が見えている?
かわいい……亡霊ちゃんみたい

ペコリ

(ドロシーがやってきた。横根へとにっこり会釈する。九郎と琥珀に目を細めて微笑みかける。

 俺を見る)

着替えるから返して
ツン

(リュックサックを奪うように持っていく。本堂に入る……。やはり俺に怒っている。嫌われたとさえ感じる)


ありがとう(その背に伝える)


松本。九郎は食うなと、ケビンの旦那に叱られた
(川田が舌を垂らしながら駆けてきた。片側の目だけに夏の日差しが映える)
コワッ
そいつは食いたいな。その薄いのは食わないぜ
小鬼も襲うな

(川田は横根を見ても食料か否か判別するだけだ。小鬼も襲うなと、きつくきつく言っておく)

川田君、無事でよかったね
俺は川田じゃない。リクトだ
……。

ドーン、ちょっと話そう

 横根と川田の久しぶりの出会いを横目で見ながら、カラスだけ連れて手水舎に行く。
カラスを頭に乗せた人間……。

うろつくならば下ろせよ

(水のある日かげが心地よい。ここでつつかれたな。まだ一日もたっていない)
横根はまだ戻ってきてない。魂の半分を、サキトガが持っていると思う
そんな感じした。お帰りとか言いにくいよな。て言うか、最初見たとき幽霊かと思った

(ドーンが水槽の縁で言う。

 たしかにあの空き地より薄くなっているような)


敵は来なかったんだ?

昨日の夜はきわどかったっぽい。大カラスが飛んでいると、ドロシーちゃんが言っていた。でかいのは高く、小さいのは低くだってさ。あの子は、結界に閉ざされると逆にすべてを感じるぜ。しかも結界をこわせるし、結界にブルーシートをかけてあったし。……ドロシーちゃん、かわいいしやさしいし強いし最高じゃね? 俺らのふたつ下って、まだ高校生だし。でも日本語喋れないんだよね。英語は話せるのに――
結界をでたあとも?(脱線を中座させる)
なにもなかった。静かだった
(サキトガが見張っていたはずだ。でも使い魔はみんなを襲えない。沈大姐を呼ぶ露泥無がいる限り現れない。来るのは、俺だけのときだ。……日中に現れるとしたら

峻計が来るかも。魔道士や異形を連れて

……。

(鏡を使えぬ臆病な老人は現れない)


ドーンはカラスのあいつを倒しただろ。あいつなら仕返しをもくろむかも。もう無理するなよ

 単独で偵察したり護符を探しにいったりしたら、いずれ捕まる。殺される。
はいはい。もう哲人から離れねーし。代わりにまた力をよこせよ

(こいつは戦いにしか心が向いてない。なんだか不安になってくる。

 そろそろ伝えないと。まだ誰にも言ってないこと)

龍は、ゼ・カン・ユである藤川匠に今夜呼ばれている
そいつも楊偉天も、俺のなかの青龍の欠片を必要としている
……。
(そいつらより先に夏奈を呼ぶ。月なき夜まで五時間。横根をドーンに託したら、ここを抜けだす)
絶対に一人で行くなよ
(ドーンは俺の心を見抜く)
俺は一緒って言ったばかりだろ。哲人が行くならリクトも連れていく。それに瑞希ちゃんも……。

カッ、哲人は逃げろって言えないのがつらみだな

俺は――

(言いよどみなんて、ドーンはおかまいない)

哲人が狙われたら、みんなでやり返すし。そんで桜井を半分人に戻して、そしたら川田を半分戻す。それくらいに構えとかね?

……瑞希ちゃんを置いていくなよ

(そりゃ半分だけの横根を見捨てたくない。……ならば、俺と横根だけみんなから離れて、ふたつの餌でおびき寄せる。自分を守るで精いっぱいだ)
分かったよ。一緒にいて
 友であるカラスに告げる。
もちろん

(ドーンが彼女と別れた理由もいまならば分かる。こいつは覚悟をもって、こっちの世界に来ようとした。

 こいつのタイムリミットはあと二十四時間ほどだよな。ドーンこそ四玉とともにいないと)

 ずっとみんなといよう。杓子で水を飲む。





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