十三の一 踊り場の六人
文字数 3,069文字
そんなことを考えながら、思玲のあとを追う。校舎の非常階段をふわふわと浮かぶ。
二階と三階の踊り場に川田達はいた。
思玲は川田の頭をまたぎ、寄り添い眠る白猫と青い小鳥の前でしゃがむ。
気配で桜井が目覚める。ぽかんとしたあと、羽根を伸ばして大あくびをする。
小鳥がすいすいと飛び、狼の頭に乗る。川田は気にいらない顔をするが、口にはださない。
思玲が三階への階段に腰かける。
思玲は眼鏡をはずしシャツで拭きながら、
春節に入って早々に玄武くずれを助けたことがある。
そのでかい陸ガメは、楊偉天が白猫とオオトカゲを人に戻しあらためて玉を光らしたと言った。そして白虎が具現したらしい。
おそらく白虎と青龍になるべき者を入れ替えた。
ハー、ゴシゴシ
レンズに息をかけて爪でこする。眼鏡がないと黒目がちが強調される。
思玲はしばし唇をかみ、
眼鏡をかけなおす。きつい顔立ちに戻る。
長髪を後ろにかき集めながら言う。
濡れたままの髪を輪ゴムで結ぶ。
(色々と納得できた。それぞれが受けた四つの光を玉に戻せば人に戻れる。そのための手段を聞きだす……。
充分にあり得る話だ。だが至難だ。探すのだって困難だし、捕えても白状させられるだろうか。聞けたところで、楊偉天にしか使えぬ術かもしれない。そもそも知らないかもしれない。……それより俺の透明な光はどうなる?
青龍の玉のおまけだから、そこに戻ると信じよう)
思玲はそう言うと、胸ポケットから葉で作った細工を取りだす。
ふたつあるうちのひとつを俺に突きだす。ヒマワリの葉で作ったと、触るなり分かった。感覚で唇にあてる。夏草の香りがひろがる。息を吹きかけると、
草笛とは思えない澄んだ音が響く。
思玲が安堵した顔を覗かせ、もうひとつの草鈴を吹く。やはりチリチリと鈴のような音がひろがる。
すっと立ちあがる。俺達は誰も腰をあげない。
この作戦は不確実すぎる。仲間が危険に晒されるだけだ。
川田が四肢をあげる。桜井がふわっと浮かび、差しこんだ朝日に照らされる。
この女以外の五人が固まる。
妖怪である俺の背筋が寒くなる。
思玲は階段に向かう。
……。
誰かに兆候が現れたら私の扇を試す。玉と箱にかかった妖術を消し去れるかをな。
かき消すことができたのなら、お前の牙で巣を引き裂け。護りの術はもはやなく、四つの玉が怯えだす。みなに入った光をおのれの中に戻そうとする。そのときに箱を囲んでいれば、お前達は人に戻れる。
コツコツコツ…
すごい剣幕だ。俺達は呆気にとられてしまう。
思玲は階段の下へと消える。桜井は手すりにとまる。
青い小鳥が背の低い太陽に照らされる。
次回「青い鳥のさえずり」