三十八の二 木霊
文字数 3,082文字
(みんなを守るための護符。俺が持っていたときよりアグレッシヴになっている。
時間を確認する。あっという間だ。十八時三十九分。スマホをリュックの内側に入れる。……箱がむきだしだ。護布で包みたいけど彼女を守ってもらわないと)
(マジで早すぎる。先ほどまで川田がいた場所に、青い毛並みの狼が立っていた。
大人に戻った状態で見ても大きい。サファリパークで餌やりした雄ライオンより、きっと一回り以上でかい。痛覚が戻らないのに、昨夜を思いだして首の後ろが痛くなる)
雅が低くうなる。
空はなおも明るい。林に比べてだ。なにかが起きようとしている。足が震える。
なのに思玲は雅へと不敵に笑うだけだ。
ひいいい!
(木霊が俺の頬をなでた……。触れられて、その正体を知る。幾多の歳月をかけて弱さを憎しみへと育くんだ、樹木の精霊のなれの果てだ。さらされるだけだった奴らは、動けるものすべてをうらやみ憎んでいる。
何十年、何千年、樹木の感覚の時空へと連れていかれる)
俺は少女の手を引く。雅に背を向けようが、食い殺されるほうがましだ。
思玲が手を伸ばし、蒼き狼の頭をさする。雅が少女の頬を舐める。空を見上げる。
ドクン
『ギギギ、フライングでフライングだ』
次回「マジにさせてしまった」