十の一 座敷わらしと相棒カラス

文字数 2,162文字

…意外に思い
武器なしでどうやって戦うんだよ


(抱えられながら尋ねる。自分の体が見えないのが不自然だ)

カラスの峻計を倒せたんだよな。意識朦朧でよく覚えてね
(カラス天狗がドーンの声で答える。こいつも戦っていたのか)
て言うか、カラスに戻りそう
 ドーンが地上へと降りていく。
フワッ
ストン
 いきなり体を手放されて、俺の体はふわりと浮く。その頭にカラスが乗る。
フワフワ

(……本人が言っていたように、こいつは俺の怒りに呼応して、さらなる異形と化した。それを受けいれているし、俺に逆らえないとも言っていた。いまは当然のように俺を止まり木にしているくせに……。

なんにしろ頭に血がのぼる事柄は起きてほしくない)

フワフワ

(ブドウ畑を山麓へと進む。短時間であろうと距離は稼いだ。俺はいつまでたっても、自分の目に見えぬままだ。どんな様相か聞くと)

子どもの年齢なんて分かると思う?

瑞希ちゃんが年少さんとか言っていた

(以前の俺と同じということか。小さくなったのは間違いないようだ。ただでさえ弱いのに

 もとに戻れ!)

わあ

(念じたら、体が伸びだした。夜空に浮かぶ小学生の体が自分の目に見える――。首の痛みまで復活した)

哲人まで戻るなよ。あっちのが強いって
ズキズキ

(カラスが頭上でぼやく。俺も首のうしろをさすりながら後悔する)

のろいと危険
(さらに高度を下げる)

フワフワ

(異形の吠え声がする。思玲達は大丈夫だろうか)

ジリジリ

ドロシーを捕まえてどうするんだよ

ジリジリ

(ドーンが尋ねる。こいつこそみんなを気にかけている。帰ろうと騒ぎだしそうだ)
捕まえないよ。あの子が下界に帰る手助けをする。……そしたら、お天宮さんが俺を認めてくれるかも
 
(あさましい考えだから口にしたくはなかった。とにかく武器が欲しい)
……やってみるじゃん
(ドーンが静かになる。納得してくれたようだ。やっぱり姑息な一味だ)
(笑い声のような吠え声まで聞こえた。人には聞こえぬ異形同士でかけあう声だ。こっちには向かってないようだが、二手に分かれたのは愚策だったかも……)


!!!

(気配を感じた。俺の挙動に気づき、ドーンがくちばしを背後に向ける)
カッ、金髪ショートの姉ちゃんが追ってきた
(俺も振り向く)

うわあ

 
(シノが直立不動の姿勢のまま車道を滑ってきた。その足もとに土蛸のドーム状の赤い頭がかすかに見える)
(こいつはふざけた日本語名だった気がするが、土もアスファルトも壊さずにもぐって移動できる。しかも早い)

!!!

プシュッ
わあ

(銀糸が網目状に吐きだされた。水平に広がり飛んでくるから、上空に逃げるしかない)

上には行くなって!

タカがいただろ。あぶりだされるのを待っているぞ。たぶん

(警戒が過剰すぎかもしれないけど、俺もカラスの群れに浮くなり好き放題つつかれた。空中戦の怖さは分かっているから林にもぐりこむ。

 腕にからみかけた糸が枝にひっかかり、ぎり助かる)

 
(あのタコは木が邪魔で追えなければいいのだけど。また麓からハイエナ達の笑い声が聞こえる)
哲人……。タカがいるかも

へえ

(さすがカラス。猛禽にそこまで怯えられるのか)
この先にいる。すごく怒っている。たぶん
(林の中? 樹冠の下も移動できるのかよ。へたすると挟み撃ちになる)


そいつらはどれくらい大きかった?

焔暁や流範の三倍はでかい
大カラスのでかさを覚えていない
俺なんか一口で食べられる
(カラスが一口サイズなら危険すぎる図体だ。避けたほうがよさげ――
青色のサーチライトに照らされる
バシン
(背中に衝撃を喰らって空中でつんのめる。……これはシノの扇のビーム。痛いけど、ドーンのしがみつく爪のが痛い)
振りかえると、栗色の光が目前に迫っていた。ふわりと避けて、代わりに後頭部が杉に激突する。――光が直前でカーブした。眼前に迫ったそれを手ではらう。手のひらがじんじん痛む。
(樹間を縫いながら三発飛んできた。それぞれコースが違う)
バシバシバシン
(避けようもなく続けざまに喰らう。林の中だとビームのが俺よりすばしこい)
……上に逃げる

フワフワ

 五発すべて喰らった俺が言う。

ギュー

痛いだけだろ。耐えろよ
 一発も喰らってないドーンが、羽根をひろげて浮かばせまいとする。
(光がまた飛んできた。もう嫌だ。俺は空へと突き抜ける)
(マリンブルーのライトがなおも追ってくる)
 
(かすみかけた栗色の光に追いつかれる。シューズで蹴っ飛ばしたら、霧散して消えた)
(……飛ぶほどに弱まるな。接近しなければ平気かも)
タカはいなそう
(ドーンが縮こまりながら言う。ならば空を低く逃げるべきか)
バシン!
ひええ~

(栗色の光を至近距離から当てられた。しかも……股間だ。小学生だろうが妖怪だろうが滅茶苦茶痛い。俺は空中で悶絶する)

あきらめろ
 
(シノの冷徹な声がした。土蛸がおぞましい姿をあらわにして、複眼で俺を見つめる。その掲げた足の先端に彼女は乗っていた)
八ちゃん、総攻撃だよ。


秘技(ひぎ)八方尾根(はっぽうおね)

(日本で日本語名の技はエキゾチックじゃなくて格好悪い)
ニョキニョキ
プシュッ
(……赤くぬめった七本の巨大なタケノコが俺を囲む。口からたっぷりと糸を吐きかける。横にも下にも逃げられない。股間を押さえながら上空に逃れる)
かかったな。

ニヤリ

行け斑風! 食いちぎれ!



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