三十九の二 聞き覚えはあるけどさあ
文字数 3,505文字
結界の前へと移動する。
ドーンが肩に降りてきて、インコよりずっとでかい翼にのけぞるほどに頬を叩かれる。
羽根から顔を背けながら、それだけを伝える。
ブワサブワサ
その足もとで、張ったままのネットが燃え始める。
俺は木札を握りながら進路をふさぐ。焔暁のどす黒い目が俺をにらむ。燃えだした爪を俺へと向ける。
臆することなく飛んでくる焔暁とぶつかりあう――。
俺も焔暁も結界にはじき返される。
焔暁が上空に去る。
幼女のような異形の声が追随する。
焔暁がフェンスの隅へと力強く着地する。俺は焔暁へと飛びかかり、結界に跳ねかえされる。……竹林は俺にまとわりついている。
焔暁が燃える爪を振りかざす。
中空に三本の筋が現れる。
結界が溶けだし、人である横根の姿が露わになる。きょとんとする横根の前へ、小鳥がかまえるように浮かぶ。
俺は横根と桜井のもとに駆ける。
桜井が叫び、ドーンがガーガーと羽ばたきながら鳴く。横根が感づき、握ったままの草鈴を口にあてる。
俺の鼓動に呼応して、俺に居座るもうひとつの力が目覚める。
桜井と横根の前へと歩く。また結界に妨げられる――。俺の仲間をお遊びで殺そうとする、異形がひそむ結界だ。
前方を叩くように払い、みんなの前に立つ。
焔暁が飛びたつ。燃える足がくすんでいく。
(……死んだはずの大カラスまで現れるとは、なんていう世界だ。
劉師傅と楊偉天の戦いも始まるようだ。だとすると楊偉天はここに現れない。笛を鳴らそうが師傅もここには来ない。
不安と安堵が交差して、ひそめた力だけが鎮まっていく)
!
(ガーガーピーピー言われなくても分かっている。
大カラス達は桜井を迎えに来た。おそらく琥珀の虚言がからんでいる。
そいつらのもとに、わざわざ彼女を連れていくはずない。そもそも楊偉天がいる場所に他の奴らも行かせない。
師傅が手助けを必要とするならば、それは思玲と俺だけだ。新たな扇を握った彼女の目を見るかぎり、川田と思玲は大丈夫だろう)
俺は見えない笑みを浮かべて、聞こえない声をかける。
青い小鳥が飛びたつ。
緊張した桜井の気配がぞわっと高まる。横根の手にある草鈴が、強風にあおられたように鳴りだす。俺達に猶予など存在しない。
次回「しこしこバコーン」