三十の一 ドライブを楽しめる連中
文字数 2,042文字
(ハンドルから手を離した大蔵司は楽しげだ。クライアントでないと知って、口調もカジュアルになっている。歩道を奇跡的な速度で走行されても平気みたいだ。彼女はアクセルだけを踏んでいる。俺達へ詮索はしてこない)
魔道団の給与なんて知らないよね。
私さあ、高卒で雑貨屋入って二か月でやめて、つてでモデルのバイトやったんだ。公園で高校ときの制服着せられていたら、この神社にスカウトされた。
自分にエモい霊感あるの知っていたし、社保とか福利厚生問題なさげだから入社したけど、三年目で手取り十五万って安いと思わない?
だってこれって技能職だし、社内に私以外に術使える人いなげだし。おそらく宮司さんも……。
四月から主任になったけど、五千円あがった代わりに休日手当がなくなって、今日みたく休みの朝五時に当日出張の連絡が来て、ブラック過ぎね?
しかもだよ、ガソリンが経費で落とせないってあり得る? 先方に請求するか歩いていけだって!
……ここんとこ月に休みが実質三日だし、朝八時始業で、サービス残業で夜の零時までだし。
やめようかな
わあ
(九郎がまたハンドルをくわえるなり、時速70キロで畑道へ右折する。ガタガタ揺れるなか、ガソリンメーターを覗く。四分の一ぐらいになっていた。大峠市まで半分以上は近づいたから、単純計算なら間に合うはずだ。時計は12時48分だった。時間をおそろしいほど稼いだ)
彼女の手紙を思いだす……。あの手紙がなければ、俺はなにも知らない人間だった。
しょうだい寺のどこそ
かなちゃんにだけつたえる。あいつが言ったこと
大蔵司がバックミラーでリップを塗りながら言う。
次回「陰陽士の結界」