四十三の二 圧倒的式神

文字数 2,134文字

ふう、やれやれ、腰が痛い
……ありがとう
悪かったじゃんね。羽根が燃えて飛べなかった
(ドーンが木札をくわえて俺の頭に戻る。雷型の護符はこいつのものになったようだ。

 風軍も復活する)

どなたか知らないけどありがとうございます。

でも疲れているし眠いからこのままで休ませてね

パタパタ

(ハトみたいなワシは川田の頭に着地する)
俺は馬じゃないぜ。……さっき乗せてもらったしな
(手負いの獣はぼやきながらも受けいれる。人の心があったときの川田を思いだしてしまう)
て言うか、どこを目指すの?

(ドーンが頭上で聞いてくる。

 俺は空を見上げる)

 真っ暗なだけで雷雨の兆しなど見あたらない。
川田は逃げた獣人の気配は追える?
ニヤ

ばらけて逃げようが、俺には意味ないぜ

(俺の問いに、狼は残忍に笑う。

 狩りへの期待があふれていやがる)

朝になろうが追いつめてやる
(それだとかかりすぎだ。でも風軍が回復するまではそれしか道はない。そもそも追撃モードの風軍には二度と乗りたくない)
ジリジリ

哲人のろくね?

だね。


いまの時刻は分かる?

(猫に戻った露泥無にダメもとで聞く)

僕は新月の夜には空気を読める。人の時間で十時ぐらいだろう

ありがと

(黒猫が得意げにひげを立たせる。

 夜半である深夜零時まであと二時間か。夏奈が現れる時間。それと九郎が戻ってくる時間。確約してなかったが)

松本、のろいぞ
(川田はすでに歩きはじめていた。横根と露泥無が追いかける。俺は護布を肩に結び、ふわりと浮かんで後に続く。ドーンが頭でバランスを取る)

フワフワ

スタスタ
スタスタ

(俺がしんがりを行く。

 意識しないと浮けない体。真っ暗な林。たまに見える空には星が見えるほどだ。夏奈はまだ来ない。急がないと。ドロシーも囚われのままだ)

わあ!
わあ

(目のまえの黒猫が跳ねあがる)

大姐からだ。


露泥無です。全員合流しました。大タカは空高く飛ぼうがターゲットから離れないので、本来の場所近くで、はい、長話はしません。

……はい、まだ鴉さえも死んでいません

(どういう伝達手段か知らないが、黒猫が空へと話しだす)
逃げられたのですか!

いえいえ非難などしていません。

……はい。

……いえ、松本は破邪の法具を手にしました。もはや異形としては使い物になりませんが、力は、は、はい、承知しました


チラッ

(黒猫が振りかえり、俺を見あげる)

使い魔や獣人が従うのをその目で確認して、藤川匠は大魔導師の転生と判断なされた。

逃げたサキトガは後回しで、そいつの討伐に向かうとのことだ。だが林の中では殲は使いづらい。


だから川田と松本を特別に式神として使ってやると仰せだ

(言い分は気にいらないが、つまり沈大姐とともに藤川匠のもとへ向かえるという訳だ。願ってもない)
俺も行くぜ
(ドーンが上空から降りてきた。露泥無がびっくりしたのにびっくりして上空に逃げていた
て言うか、俺と瑞希ちゃんだけこんな山の中にいられねーし
ウンウン
(白猫も首を縦に振る。たしかに俺達が死んだら、二人とも完全な異形になるのを待つだけだ。

 黒猫が白猫を見つめる)

楊偉天達もこの地にいる。闇と化せる僕が君達を匿う。いざとなれば風軍に乗って逃げる。

ついでに四玉の箱もリュックも守っておこう。松本も身軽になれるだろ

(横根がいなければ、彼女の祈りに頼らないで済む。……やっぱり不安だ。

 箱とリュックが露泥無……。それも不安だ)

バサバサバサ…
 
 
(などと躊躇していたら、樹木達が無数に倒れる。木霊達が恨みの声をだし、すぐに怯えだす)


!!!

(隕石が落ちたような地に、巨大な翼竜が姿を現す。……風軍の倍以上ある。俺の実家よりでかい)
こいつが殲だ。ドヤ顔。大姐配下のナンバー3。ちなみに僕がナンバー2
ジロッ
松本と手負いの獣、乗れ
(殲の頭上から大姐の声がした。いきなりすぎる)
また空からだぜ

(川田が尻尾を振りながら、翼竜の巨体を駆けあがる。風軍がしがみついたままだ。狼は振り払わない。

 俺もふわっと浮かぶ。横根が背中に飛びつく。振り払えるはずがない)

俺も連れてってくださいよ
ドーンが露泥無の案に従うはずない。すでに沈大姐の前でホバリングしていた。俺もたたずむ殲に着地する。沈大姐は二胡だけを持っていた。

 横根が翼竜に飛び降りる

わ、私も行きます
ジロッ
大姐が二人をじろりとにらむ。二胡を持たぬ手の中指と人差し指を突きださせる
 
(赤い閃光が二たび飛びでる)
サッ
クワッ
ドクン
……。

(彼女が飛ばした光を、横根は軽やかに避けた。でもドーンは直撃を受けて地面へと落下した。

 俺は沈をにらむ。川田が俺の横にはべる。うなり声がもれる)


……沈

さすがに無理じゃね? 俺、めっちゃ近かったし
(迦楼羅が舞いあがってきた)
て言うか、こいつも連れていくのだろ?

(黒猫の首根っこをつかんでいる……。

ヤバイカモ

沈は怒りに満ちた俺など一瞥もしないないホッ)

その姿でも危うい。

だが、その傷でたいした精神力だ。お前も乗れ

♪♪♪♪♪♪

そして沈栄桂が二胡を奏でる。……この切なげなメロディーは祈りだ。ドーンの傷が治っていく
殲、飛べ
クエエエエエエ
わあ

(大姐の命令に、翼竜が羽根をひろげる。俺達はまた空にでる。風軍が川田の頭であくびをして、また眠たげに目をつむる)



次回「夜空から襲撃」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色