五十一 GWの二人

文字数 1,218文字

俺のアパートに始めて来たのはドーンだった。

ゴールデンウィークの真っ最中。高校時代の仲間とバーベキューをして、こいつだけ現地解散したらしい。俺のアパートは東京のはずれだ。

『せっかくだから寄っていい? 邪魔じゃないよね?』

わざわざ電話でにこにこと言う。

おもいきり勉学の邪魔だ。でも知り合いはいまだ少ない。だから駅まで迎えに行った。自習も切りあげた

めっちゃ簡素な部屋じゃん。て言うか、哲人は彼女いるの?
いないと答えると、自分の彼女自慢が始まる。画像を見せられる。盛りまくっているので、なんとも答えられない。

高校時代の加工してない画像も見せられた。……かわいいじゃないか。4―tuneの一年女子レベルだ。ほめ過ぎかな?

「俺は夕方からバイトだから」


言うのは二度目だ。まだ二時間あるけど、早々に帰ってほしい

焼肉屋だっけ(当時は。夏に閉店してバイト先をコンビニに変えた)? 店員割引ある?
ドーンは気にしない
でも肉食いすぎたし。ラケットふたつあるじゃん! テニスやるじゃん。俺さ、初心者にしちゃうまくね?
ほかになにもない部屋だから、休みの会社の駐車場に行く
ひさびさに汗をかいて発散できた。

ドーンは運動センスのかたまりだった。とくに体の切り返しと反応。ラグビーの背番号9番を連想させる動き。敏捷性は間違いなく俺に勝る。

バスケなんかでなく別の球技のが合っているかも

背丈なんて関係ねーし
……こいつ、本気でにらんだよな。ドーンは調子がいいだけじゃない。テニスの真似事でさえ、たまに勝気があふれた
シャワー貸して。そんで、バイト終わるまで部屋にいていい?

なにもなかったように言う。断りたい。顔を覗きこみながら言われると、いいよと言ってしまう。あさられて困るものもないし。

ドーンのペースは小気味よくて、ある意味一緒にいて楽だ

「川田って、のんびりしているよね?」


ドアを開けながら言う

あまり口きいてないから知らね。東京にいれば、来年の夏ぐらいには変わるんじゃね?
ドーンがスマホをいじりながら部屋に入る
カカッ、やっぱ飲み会だとよ。大学入ったら、みんなこれ。勉強漬けの男もいるのにね
こいつは歓迎会を二度とも来なかったな。未成年だからと真面目なのか、賑やかすぎる集まりが苦手なのか、単にアルコールが駄目なのか。付き合いが浅いからなにも分からない

「鍵をポストに入れて、勝手に帰っていいよ」


いつまでもいて欲しくない

帰んねーし。哲人が終わるまでここで待つじゃん
ドーンがにこやかに手を振る






 

 
「……俺のベッド、俺の枕で」


戻ってくると、たしかに待っていてくれた。俺のベッドで爆睡していた。コンビニには抜けだしたらしい。俺の分らしき炭酸飲料と缶コーヒーがあった。

俺は微糖コーヒーを飲みながら二時まで勉強して、タオルケットをかけてフローリングで寝る

ドーンは起きない。床からの冷気がきつい――
いつまでも寝ているな
わあ

(思玲に護布をはがされる。彼女は全裸だった)



次回「六人の魂が詰まっていた」

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