四十四の三 人だろうが何だろうが
文字数 1,956文字
(スマホを握り、ドロシーの父親のシャツを着ていた。血みどろだ。洗って返さないと……。
……。
……。
そんなことより俺は人だ。もはや宙に浮かべない。四玉も横根も腹に隠せない。記憶とドロシーに術をぶつけられた痛みだけが残っている。まだ青龍の光も残ってくれているけど)
闇のなかに横根の白い毛並みがぼんやり浮かぶ。俺へと駆けだそうとしている。
俺が投げた天宮の護符を、白猫は跳ねて口でキャッチする。
『10,9……。またずれやがった』
天宮の護符は空間に突き刺さっていた。
空が怒っている……。
「松本君、光が寄っているんだよ!」
か弱い妖怪変化の光が、もう一度俺のなかに入ってくれた。
俺は立ちあがる。外見は変わらない。ドロシーの父の服を着た俺だ。
でも闇がはっきりと見える。あばら家を燃やす炎がひときわ明るく感じる。再び俺は人に戻るなり死にそうな、失った目も復活した人間くずれだ。
もはや空に浮かべない俺は地面をかける。木霊が闇空に怯えている。
着地した狼が毒づく。
右ポケットから横笛を取りだす。受けとった迦楼羅がカカカと笑う。俺は天宮の護符をたやすく引き抜く。
狼へと手渡そうとする。
手負いの獣が俺を見あげる。
次回「剣の所有者 鏡の所有者」