二十三の一 ユニット名『十二磈』
文字数 2,011文字
こいつのこの一言が、恐怖心をかき消してくれた。
思玲が鬼に背を向けて逃げだす。よろけてひざまずく。
彼女の背を見て、鬼がグヘヘと近寄る。思玲が振り向くなり両手を交差させる。至近距離から、緑松とかいう鬼へと螺旋の光をぶつける。
俺は木札を握り、紫英だかいう鬼へと向かう(腰巻の色柄で区別がつくようだ。こいつは紫)。
紫英が崩れ落ちる。俺はみなまで見ない。
呆気にとられていた珍珠の腕に、川田が飛びかかる。
ゴリッ
手首をかみ砕く音がした。
悲鳴をあげた鬼から口を離し、片目の狼が跳躍する。珍珠の首へと牙を向ける……。
珍珠がハンマーのような頭突きで叩き落とす。鬼は折れた手で転がる狼をつかみあげる。逆の手でアッパーカットを喰らわせる。
川田は樹木の枝を折りながら、大学を囲む塀に激突する。
緑松はすでに起きあがっていた。
思玲が返事の代わりに螺旋の光を放つ。
直撃した緑色の腰巻から煙があがる。
弱弱しい螺旋の光を、緑松が首を横にそらして避ける。
川田へ追い打ちに向かっていた珍珠が突然笑いころげる。
緑松も焦げた腹を抱えて笑う。……紫英の体はうっすらと透けていた。
鬼は深く考えもせず、俺へとまた襲いかかる。おぞましい叫びとともに、俺の頭を握った紫英がまたもや崩れ落ちる。溶けだした手で、さらに俺をつまもうとする。
木札に触れ、声にならぬ絶叫とともに消えていく。
珍珠の首へと、背後から黒い影が飛びかかる
木札を鬼の腰巻へと押しつける。
両ひざを地につける。片目の狼はのしかかるように噛み続ける。鬼が俺の存在に気づく。俺へとおぞましい牙と爪を向けて、木札がさらに強く発動する。
狼に首をへし折られるように、珍珠がうつぶせに倒れる。溶け始める。
思玲がよろよろと立ちあがる。
鬼が逃げ場を探り、三人に挟まれる。
座りこむ。
セミはまだ鳴きださない。
次回「狼でさえ遠ざかる」