五の二 旅立ち
文字数 3,850文字
思いだせと、妖怪である俺に働きかける。思いだせ、思いだせ、思いだせ……）
話が違うじゃないか。俺は記憶なんか戻らずに子供の妖怪になった
しかも猫は人になり、子犬は人の言葉を喋るし、ドーンはカラスに……
カカッ、だったらよしとしね？ どうせ一筋縄でいくはずねーし
フサフサは俺が人だったときに無視しやがったな。
俺の名はドーン。
あんたのことは白猫ちゃんから聞いているぜ。猫に戻りたいのならば、その箱が持てるか試せよ。前足で持つんだからね
白人女性が俺の頭上へと小馬鹿に笑う）
私を馬鹿にしないでおくれ
ﾉｼﾉｼ
そういえば、スーリンは大人に戻らなかったが猫にもならなかった。魔道士としての術は戻ったのだろうか？）
かなりむくれているな。ひもは夜になってからにするか。
哲人、連れてはきてくれ
ﾎﾟｲｯ
ｶﾞﾌﾞｯ
なんてことを。修理代はいくらに……）
ｽﾘｽﾘ
哲人、土着のお札はどこだい？
ﾁﾗ
……フサフサ
ｹﾞﾎｹﾞﾎ…
（フサフサの胸もとから、リクトの弱弱しい声がする。
大ツバメと追いかけっこをしていたのではなかったのか――
……和戸の財布は小銭だけだし用をなさぬ
ｼﾞﾛ
これだけあれば、我々とともにお天狗さんまで行けそうか？
片道の普通電車代なら俺とスーリンは子供料金、フサフサだけ大人料金。余裕で足りる
カシャッ
振り向いた俺へと、スーリンがスマホを向けていた。
それより準備だろ
（覚悟を決めた俺は強い。全員を見まわす）
リクトは段ボールで我慢して、スーリンちゃんが運ぶ。
トンネルがあるから、ドーンも段ボールで昼寝していて
荷物は必要最低限だな
（ドーンの不平を聞こうともせず、スーリンも動きだす）
おそらく川田という人は、すでに番号を二度間違えて放置していた）
こっちの世界ではバットも包丁も意味ない。振りまわしたら十倍返しだ
瑞希ちゃんの手紙――マジかよ、判読できる
浄財の二万円――異形になると、たしかに浄財だと分かる
草笛――ぐしゃぐしゃのもあったが、だいぶ前に思玲が捨てた
をポケットにしまう）
本来の自分に関わるものは所持できないのか。教えておけよ）
ﾋｮｲ
お天狗さんってところにいけば、あのお札がまた手に入るのかい？
その前に寄るところがある
（薄ぼんやりだけど、さきほどの夢でひさしぶりに会えた。
あの手紙にも『大峠の山の神』と記されていたし、墓参りにこそ行きたい）
今の状況は、カラスになったドーン、座敷わらしになった俺、人になった野良猫、荒くれた子犬、
そして……）
（俺の問いに女の子はきっぱりと言う。つまり大人であった普通の女の子を加えた、想像だにしない五人（匹）での里帰りだ）
結界も光もだせないのかよ。テンションさがってきたけど
思玲はただの女の子のまま、哲人の記憶は戻らず。俺は箱に押しこめられる……
とりあえず俺は空で待ってるじゃん
外に意識を向けたからか）
スーリンが俺達を見まわす）
お前達を狩るために存在する魔道士どもが追っていることを忘れるな
ｶﾞｼﾞｶﾞｼﾞ
ｱﾁｰ
ｱﾁｰ
ｶﾞｼﾞｶﾞｼﾞ
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次回「各駅停車の旅」
