四十七の三 ようやく奏でる二人
文字数 2,944文字
手足が凍っていく。しがみついたままシャツ越しに心を伝える。
陽炎のビル、緑地公園の野球場、駅ビルの屋上、小学校の校庭。二人だけの記憶なんて、異形になってからだけだけど……。木枯らしの吹くショッピングモール。交わしたハイタッチ。
それでも龍は無言だったけど、
ブルブル
(地吹雪の広場にいるのは彼女と藤川匠、残存の獣人が二体だけ。竹林に積もる雪を結界がはじく。
ドロシーはしゃがみこみ銃を撃っている。疲弊が上空からでも分かる。藤川匠は術の弾幕をたやすく弾く。間合いが狭まっていく)
ふとドロシーが上空を見上げる。その一瞬に藤川匠が駆けだす。
剣の一撃をドロシーは銃で受けとめて寸断される。
藤川は彼女の腹部に蹴りをいれる。
仰向きに倒れた彼女の喉に剣先をつける。
藤川匠が龍に乗る俺を見あげる。
俺は飛び降りる。なのに龍が俺を握る。
藤川匠がドロシーの脇腹を蹴る。頭も。彼女は顔からぬかるみに押しつけられる。
藤川匠が剣をかかげる。おぞましい丘陵と対峙する。
藤川が丘のごとき異形へと憂いある目を向ける。
巨大な異形が逡巡する。首を垂らす。藤川匠が乗る。
頭上にいた老人が杖を向ける。
若者の刹那の動き。破邪の剣が杖を切断する。
藤川が消えゆく楊偉天をつき落とす。
数メートル落下した老人は動かない。そいつはどうでもいいけど、泥に顔をうずめたドロシーも動かない。
藤川匠が命じる。
破邪の剣が煌々と光る。
俺が命じる。
龍が怯えている。
龍から人の歌が聞こえた。
藤川匠が剣をおろす。
龍と無死が交差する。俺は爪から離れる。空中に舞い、
ズドン
無死の起こした地響き。不死身のはずの巨大な異形が溶けていく。それよりも、
俺は横たわる彼女へと這いずる。
背後からの怒気。
ズサッ
次回「破鏡」