二十四の一 漆黒の扇
文字数 3,794文字
その背後では、男が能面のような顔で立ちすくんでいる。
人間の男性は荷物を置いて、来た道を去っていく。
峻計が黒い扇をあおぐ――。黒い光が一直線に思玲へと向かう。
彼女は小刀を横にかかげ、押されてよろめきながらも弾 く。
峻計が返す扇でさらにあおぐ。バックハンドで黒い光が放たれる。
鬼の絶叫が響きわたる。胸もとをかきむしる。
峻計が扇を持たない手の指を鳴らす。
キャリーバッグがもぞもぞと動きだす。爆発したかのように開く。
琥珀と呼ばれた小鬼は宙に浮かんでいる。俺を怪訝に見つめ、だぼっとしたパンツをずりあげる。飴色の冬仕立てなパーカーのフードを深めにかぶる。
パーカーのポケットからなにか取りだす……。
俺と目が合うと笑みをかき消し、
命じられるまま俺は浮かぼうとするけど、峻計の扇が向けられる。
(俺へとどなるだけだ。……でも思玲一人で戦えるのか。むしろ、さっきの川田との連係プレイのように、二人で力をあわせるべきかも。
小鬼がぽろりと言ったな。護符がある俺が盾になる。その背後から思玲が螺旋の光を放つ。……いや、待て。あの黒い光は一撃で鬼をダウンさせた。護符より、思玲の術より強い)
小鬼がぽろりと言ったな。護符がある俺が盾になる。その背後から思玲が螺旋の光を放つ。……いや、待て。あの黒い光は一撃で鬼をダウンさせた。護符より、思玲の術より強い)
小鬼が自分の十倍ぐらいある鬼達をにらむ。スマホをポケットにしまい峻計へと、
煙突からあがる煙みたいに浮かぶ。
俺も反射的に浮かびあがる。小鬼を追いかける。護符を喰らわ
尻への衝撃。
ズドン
俺は吹っ飛び、大ケヤキの幹に激突する。ごつごつと老いた樹皮は静かに受けとめてくれたが、体の裏側が焼けるほどの激痛だ。
悲鳴をあげながら、ずるずると地面に落ちる。あえぎながら振り返る。
カラスの羽根のような扇を握った峻計が、きれいな顔を歪ませて笑っていた。
鬼達がぎょっとした顔をする……。
思玲の亮相の構えが見えた。両手を交差させる。
なのに峻計が半身になって扇をあおぐ。
螺旋の光は黒い扇の上に乗り、俺へと振るわれる……。
思玲は叫ぶけど俺は動けない。金色と銀色がぐるぐると――。
光の直撃を受ける。妖怪としての自分が切り裂かれる衝撃だ。木札が守ってくれない……。
思玲はすぐそばにいる。体熱すら感じるほどそばに。俺は視線を動かす。
いら立つ峻計が見えた。
あいつが横たわる鬼へと扇をふるう。
鬼が断末魔の叫びをあげるなか、
俺は腕を引っぱられる。思玲が目の前に現れる。
抱えられながら尋ねる。
彼女は身を引きずるように地面を進む。俺は木札を見る。
俺は彼女の胸もとを見る。思玲も俺の視線に気づく。
思玲がまた舌を打つ。峻計が鬼達に背中を守られながらケヤキに近づいてくる。
次回「差しだすものあり」