……。
(即座の撤退。俺も川田も雅も、横たわる龍である夏奈のもとにたどり着く。結界に包まれる。俺はリュックから四玉の箱をとりだす)
(思玲の手から落ちた護符をくわえる)
川田、すこしだけ待って
俺は外箱を開ける。四玉の玉はすでに怯えている。木箱を隔てても感じる。
白猫を見つめる。
木の蓋をどかすなり横根と夏奈は人に戻る。俺と川田はここからすぐに離れる。
次の攻撃で結界が消えた瞬間に開けるよ
(横根が祈りをやめる。……また薄らいでいるよな。
透けた白猫が訴える)
わ、私もまだ人にならないよ。そしたら結界が消えちゃうよ
でも横根が立ち去っても夏奈の巨体がさらされる。ギリギリまで守ってもらわないと。
またすぐに箱を開ける。今度は白ライオンになってもらうよ
(夏奈を救おうとする感情が結界を育んでいる。彼女こそ精根尽きるかも。横根はもうこっちの世界に戻さない)
(毒と火焔が盛大に飛んできた。結界は押しとめるがひび割れる。……横根の結界は瞬時に復活するよな。周囲の仲間を包みこむよな)
閉じかけた結界をかき分ける。隻眼の黒き狼とともに飛びだす。
(手負いの獣が闇にまぎれる。
峻計は姿を見せない。結界にこもり、すぐ横にいるかもしれない。土壁にしてもだ。空に麗豪、地に法董……)
えい!
(奴が冥神の輪を横へと投げる。重機のごとくパワフルに俺へと駆けだす)
わあ
(法董は俺が投げた独鈷杵をたやすく避ける。俺の首をつかむなり背負い投げる)
わあ
(黒い魔獣が滅魔の輪を跳ね飛ばす。くわえた天宮の護符が、獰猛にどす黒いほどに輝いていた)
(なのに護符を落とし、法董の首を噛もうとする)
なんて奴だ
わあ
(護符を投げ戻した俺へと法董の蹴りが飛ぶ。背骨に直撃)
ぺっ
(妖怪のくせに血を吐く。吐いた血が水たまりに混ざり消えていく。輪が奴の手に戻る。折れた背骨はかってに接着する)
この書をめくりたい。知と識を授けると、死者達が呼んでいる
(麗豪が空でつぶやく。
空からの鞭はそぞろだが、)
うわあ
(法董は跳躍して避ける。俺は吸いこみ、むせる)
土壁め。俺も殺す気だな! お前達も今宵のうちに消してやる
一連の説明
(僧が吠える、上空から俺へと輪を投げる。川田が口にした護符ではじく。俺は法董へと独鈷杵を投げる。蹴りかえされて戻ってくる……。
こいつマジで強いかも。
護布が欲しい。でもドロシーを守ってもらわないと)
チラリ
(ちらりとよそ見する。青龍は横たわったままだ。でかいから人に戻るのに時間がかかるのか? たしかに玉は怯えていたよな)
(川田は俺と背中合わせだ。
峻計の思惑など分かるはずがない。すべてに集中しろ)
あの有能な蛇は私に従った。滅邪の輪が怖くてな
私の傷を笑いものにしたらしいな。貴様達にはもはや船頭はいない。
地裂雷!
(峻計は姿を消さない……まずい。師傅が陽炎のビルで多足も手長も峻計も一撃で倒した術)
(法董が何もない闇へと冥神の輪を投げる。結界に跳ねかえされる)
(峻計が姿を見せないまま笑う。
レベルの高すぎる戦いだが、こいつらは内輪もめばかりだ。その隙に、俺は夏奈達をしかと見る)
シカッ
私は祈ります。朗らかで元気な彼女にまた会えるために……夏奈ちゃん頑張って!
(……青龍が溶けだしていた。透けた白猫が祈りつづけている)
わあ
(背中への強烈な衝撃。だけど痛くない。手負いの獣がのしかかっていた)
ありがと
(護符をくわえた川田が笑う。
あいつの本命は俺だった。それよりも、)
私が閉じた!
お前らが手こずっているからだ! 私が寝ているあいだに、勝手に事を進めるな!
(傷だらけの少女はリタイアしていろ。俺の心を察した雅が低くうなる)
早く開けろ!
(それでも俺は叫ぶ)
(思玲は大声を続けられない。そりゃ、このままだと人に戻った二人はこっちの世界の争いに巻きこまれる。思玲は正しいけど、だとしても正しくない。峻計と土壁、法董と麗豪、こいつらを全部倒すまでに夏奈は消える。……そうだな。せめて法董だけでも。
?
雅がまだ唸っている)
(モグラを押しのけて、小鬼が穴からでる。背後を気にしながら結界をノックする。中へと転がりこむ)
!?
松本哲人、決着をつけたいようだな。たしかに長引くのは互いに利がない
(法董が冥神の輪を握る。
俺達へと駆けてくる。輪を投げないのは接近戦だ。つば競り合いでのかすり傷でも、俺は消滅する――)
(だから独鈷杵を投げる。そして背を向けて逃げる。川田が俺を追い越しやがる。
だめだ。どうしても冥神の輪が怖い)
(声が聞こえ……声じゃない。笛の音色だ。明るく軽快な響きは、沈大姐が殲の上で奏でた高山青だ)
川田が空を見上げる。法董も見上げる。その空を峻計の雷が乱れ飛ぶ。でも笛の音は途絶えない。その旋律に勇気が蘇る
効かねーよカカカ
沈おばさんの曲、あれはヒントだったな。他にもリクエストしろよ
(再びの雷術を迦楼羅は軽やかに避ける。術の鞭などたやすく逃れる。昨夜の俺より素早いかも。
それより琥珀だ)
パソコンに電波をつなげろ! そしたらプラチナ会員だ!
(名前は呼ばないけど)
手負いの獣が法董へとあらためて向かう。毒と炎が割りこみ競演する。川田は突破する。
強烈な波動が、俺達の背後で炸裂した。結界の外の連中は誰も気にしない。
うおおおお!!!
(俺は法董へと独鈷杵を投げる。法董は蹴落とし、地面の川田へと冥神の輪を向ける。俺は手ぶらで駆ける)
人の目にさらされた体。
雅、これが本気の姿か。昨夜の私とは茶番だったのか
(麗豪の鞭は狼達には届かない。ドーンの笛が絶唱する。俺の手に独鈷杵が戻る。法董に戻らんとする輪へと投げる)
(まとめてつかもうとする奴の手を、雅が噛む。地面へと引きずり落とす。でも奴のもうひとつの手に輪が戻る。俺へと鞭がからみつく)
邪魔だ
(この術は杖経由じゃない。俺は麗豪を引きずる)
法董は雅の背へと輪を投げようとして、俺と川田に気づく。法董が空高く跳躍する。狼達ですら捕らえられない。
(峻計の公平なる憎悪。
雷が法董を包む。橙色の僧服が黒く焦げる。法董が地に落ちる)
(川田が飛びかかる。くわえた天宮の護符が黒く輝く。俺も独鈷杵を突く)
報いだ
(法董は悲鳴を漏らすことなく泥にうつ伏す。その手から冥神の輪が落ち、ぬかるみに垂直に埋もれる)