七の二 夕焼の霹靂
文字数 1,943文字
その手に槍が現れる。
バリバリバリバリ
ドロシーは異形への声に変えた。車道をのんきにくだる農機の排ガスが漂う。ケビンが顔をしかめる。
彼女に背を向けたまま、俺をにらんだままで答える。
岩のような大男が俺に背をむける。その手から槍が消える。
駆けこんできた巨大な馬を、ドロシーはよろめきながらも避ける。装甲をまとった軍馬にケビンが飛び乗り、地面にころがる彼女を見おろす。
目覚めたときは、ドロシーの整った顔が目の前にあった。彼女は異形である俺を抱えていた。
俺を安堵させるために笑みを浮かべる。……手水舎の影から覗いても、もはや夕焼け空にはなにも飛んでいない。
言いかけた俺を彼女が押しとめる。
ドロシーが目を閉じつぶやきはじめる。
俺のなかの妖怪変化がインプットする。
ドロシーが俺を抱えたままで笑う。
ありがとう……
(半日前に散々痛めつけられた相手だ。よき人間であろうと礼を言うのも口惜しい。
俺は彼女の手から離れて浮かびあがる。首に手をまわすと血はとまっていた。でも痛い。ついばめられた背中もあちこち痛いが、たしかに夜を重ねれば復活しそうだ。彼女の祈りのおかげで……)
次回「リュックサックとタクトスティック」