十一の一 新しい朝が来た。希望の……
文字数 2,104文字
夜は長いようで短かった。空は白みだしたけど、小鳥はまだ鳴かない。俺は小学校の校舎の陰から、ふわふわと校庭にでる。
朝礼台の上には、暗い校庭を見わたすようにカラスが一羽とまっていた。ドーンだ。俺に気づき振り向く。
そんな冗談は楽しくもない。あの夜を終えたばかりの朝なのだから。希望もない朝を迎えただけだから。
全員がそろい小学校の片隅を隠れ家と選んだあとも、誰もが口数は少なかった。やがて思玲が中庭の狭い夜空を見上げる。
思玲はその言葉とおりに話した。あと一日ちょっとで俺達の誰かが餌を求めだすことを。それを手始めにみなが飢えにさいなむことを。ドブネズミでも見つけようものならば奪いあって食べ、人としての心が消滅することを。
思玲はまた空を見上げる。じきに俺達に顔を戻す。
思玲は続ける。多くの四神くずれが楊偉天達により殺されたと。同じように劉師傅により消されたと。人の心が残っていようが、人の目にさらされた忌むべき異形として処分されたと。
そして彼女も俺達を殺すためにこの国に来たと。
俺の弱弱しい返答を横根がさえぎる。彼女は思玲の両手に爪痕を残し、抱えられて戻ってきた。
桜井らしきインコが場の空気を変えようとする。みんなの顔色だけが変わる。
俺はさきんじて彼女をとがめる。インコである桜井は裏切られたような顔になる。
小鳥が泣きだす。涙はでない。インコであろうが、俺はおろおろとする。
白猫まで泣きだした。
狼の遠吠えが中庭に響く。みんなを見わたす。
俺は緊迫した空気を消すために、思い浮かべていた希望的観測を口にだす。
小鳥が白猫の前へと浮かぶ。横根は目をそむけ、すぐににらみ返す。
思玲は真実を告げおえると、目をつぶり黙ったままだった。
横根が校舎の奥へと駆けていく。思玲だけが追いかける。俺達は黙ったままだ。電線に電気が通うかすかな音が耳ざわりなだけだった。
しばらくして思玲が戻ってくる。白猫は彼女の腕の中で寝息をたてていた。
思玲が片手を川田に突きだす。狼は牙をむいたまま尻ごみする。
桜井が追いかける。男三人が残される。
誰の頭にも思い浮かぶものなどあるはずない。ほとんど黙りこくったまま、気づけばみんな散りぢりに自分の居場所に去っていった。
次回「大空あおげるかよ。ラジオなんかねーし。風よどんでるし」