十五の二 考察は武器

文字数 2,369文字

ブロロロ……
……。
……。
……。
クンクン、キョロキョロ
……。
ふん

ノシノシ

スースー
フワフワ

……。

 宙に浮かびながら、思玲の寝顔をぼんやり見ていた。
(横根を連れ戻すために、どうすればいいのか。夏奈を人に戻すには、なにをすべきなのか。……楊偉天も龍を狙っているはずだ。なのにあの老人ですら、いまだ龍を野放しだというのに)
クンクン、クンクン
(横根を奪ったのは使い魔だ。沈大姐さえも、奴らを追撃できない言い分だった。俺達はそれを果たさなければならない。明日の晩までに)
“君は忘れて、僕は思いだす”
(使い魔どもの主である、ゼ・カン・ユ。会っているかもしれない。破邪の剣を持ち去った青年は、ロタマモ達の名をあげていた。夏奈の名もあげた。つまり旧知。もしかすると――)
“たくみ君?”
(ねたみすぎだ。そっちは深く考えるな。関わってしまった人達を魔物から守る。町まで見送る。そして三人ですべきことを考えろ。なによりも横根だ。見あげるあの瞳を)
“迷惑ばっかりだ”
そんなことないよ
(『囮を兼ねろ』と沈大姐に命じられた。それは誘いだせということだが、どうやって? そこから考えてみるか)
……。
スースー
…………。
(あいつらが望んだものは、四玉の箱と俺の消滅。東京では、どちらもほぼむきだしで無警戒だった。使い魔達なら、いつでもゲットできたはずだ。なのに俺が護符を手にするなり現れた。なぜいまさらそれを欲した?)
(おそらくは、異形と化した俺に先んじられないためだ。桜井を救わせないためだ。……奴らも龍を欲していた。桜井である龍こそを、ゼ・カン・ユに捧げるというのか?

 あり得そうだ。そう仮定しよう)

(峻計が儀式とか言っていたな。完全なる青龍をつくるためには、対角に位置する白虎が必要。そのために横根をさらった……)
ノシノシ、

 ノシノシ

(いまの白虎くずれはフサフサだよな。フクロウ達は興味も示さなかった。すごい生贄になりそうなのに。それに、あの青年は屋上で箱を持ち去ろうとしなかった。重たかろうが、持って帰れば完了だ。ならば白虎は関係ない。箱すらも関係なくなる。

 横根が連れ去られたのはたまたまと仮定すべきか? 俺の交わした契約のためだけと)

スースー
…………。
(式神にこだわらなければどうだろう。

 楊偉天が言う荒ぶる龍でもOKとする。四神の青龍を必要としないのなら儀式も必要ない。でも荒ぶろうが完全なる龍を求めるなら――、青い光をかき集めることはなおも必要。ならば箱は必要。

 屋上の青年は、箱に人が閉ざされていると言っていた! 自身は人と関われないとも)

(人に関われないから箱を放置した。使い魔達には重すぎて運べなかった。すこし無理があるけど辻褄があってきたかな)
ブロロロ……
……。
(あの青年が魔道士だとしたら、あの箱には触れられない。その魔道士が邪悪だとして(使い魔を使うのだから当然だ)、箱に触れられるほどの力を欲するとしたら……。そのための生贄が横根。明日の夜に彼女の魂を得て、使い魔の飼い主はさらなる力を得る)
スヤスヤ
………………。
(少女の寝顔を見ていたら、肝心なことを思いだした。

 あの青年が思玲を箱から救いだした。つまり箱に関われる。つまり魔道士ではない。理屈が破綻した……と見せかけて、逆にひらめきかけている。もう少し考えろ)

(えーと、魔道士でないから式神は使わない。だから契約契約騒ぐ、いやしい使い魔を手さきにする。あの青年は箱には干渉できるけど、四玉には関われない。なぜならば……、玉は卵だから。すなわち魂だから)
スー、スー
……………。

……………。

(珊瑚の玉が魂と同一だから触れられぬように、いやしい奴らは契約でしか魂に近寄れない。だから使い魔の主が四玉にも触れられる力を得られる夜を――、特記事項が満了する新月を待ち焦がれていた)
(それを邪魔する存在が忌みすべき世界に戻ってきて、しかも奴らを滅せるものを手にした。

 屁理屈が完成したかも)

ブロロロ……
……。
(でも状況は急変した。青い破片は再び俺の中に戻った。もはや箱があろうが青龍は生まれず、玉があろうが完全なる龍とはならない。だとすると箱でも玉でもなく、俺だけが奴らのターゲットだ。俺こそが大姐がのぞむ撒き餌)
スー、スー
……ゴクッ

(奴らは愚かでない。怪鳥がマッハ2で草津から何分で到着するか知らないけど、使い魔達は俺を襲う愚を犯さない。あの陽炎のビルでも、楊偉天が立ち去るのをひたすら待っていたように)

スー、スー
…………。
(でも、もし俺が夏奈を呼んだのなら、青い光が揃おうとしたら、使い魔にしろ楊偉天にしろ、どのような反応を示すだろうか。

……ならば、かすかに青い光をもつ魂を撒き餌に、龍を釣り針の先に――)

スー、ス
わあ

アタフタ

(いきなり思玲が間近で目を開けて、あたふたしてしまう。知らぬ間に惹き寄せられていた)

ウトウト…
ハッ
バウバウ!
わー
わあ
(リクト、いや川田が荷台から飛び降りる。急ブレーキがかかる。ドーンと露泥無が荷台で転がる)
ケビンやめてよ。居眠り運転だったから轢くところだった
バウ! ズル…
(ドロシーが正面の闇へと安堵の混じった声をだす。リク、いや川田がなにもない闇へと飛びかかり、ずるりと落ちる。これは姿隠しと、すべてを思いだした俺は気づく)


ていうかケビン?

…ドロシーには見抜かれるが、こいつとあいつは?
ケビンだと?

ズリッ

 思玲が存在しない眼鏡をずりあげる。目を細め、
私達は同盟みたいなものだ。槍を振りまわすなよ
見れば分かる。


だが分からない。農機を脇に寄せろ





 

ブロロロ……

オーライ、ストップ!


(ドロシーが桃畑の下に運搬車を押しこむ)
でかい犬じゃなさそうだね

(どこからか声がする)

ヌッ

だったらそっちに帰るよ

(闇からフサフサが現れる。こいつは結界ばりに姿を隠す)



次回「桃畑の八人」

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