五十三の二 深夜の校庭4.91
文字数 2,203文字
(ドーンと屋根に並んで、川田が真っ暗な校内を走るのを見守る。発散させないと、人の食事で満足してくれないからだ。人とは思えぬ速さだから、人目につかないところを走らせる。校舎の壁をよじ登るなどなおさらだ)
俺は下を見る。横根と夏奈がベンチに並んで座っている。
……満月までにはね
(それでも俺はつぶやく。……満月に川田はどうなるのだろう。
新月の夜は物の怪系の祭りだった。末座の俺さえも異様なまでの回復力だった。
けだもの系の夜祭まで、まだ十日ほどある。仲間には、賢い琥珀と素早い九郎もいる。いずれ思玲も戻ってくるに決まっている。俺は焦っているけど焦っていない)
(お盆を過ぎたばかりだと東京の空は秋めかない。曇り空だから、か細い月はどこにも見えない。横根に押しつけたままの川田のスマホには、まだ日向七実からの連絡はないようだ。連絡したくても、俺は人の声を発せられない)
(俺同様にまたも生き延びた峻計も思う。あいつは藤川匠のもとに向かうと感じる。唯一残った仲間の傷をいやすために、藤川の軍門にくだると確信してしまう。
黒羽扇は白銀の光に溶けた。だが、あいつは楊偉天の杖を手にするだろう。幾多の妖術をあやつる杖を)
(さらに上海を思う。借りた法具や笛、代償の護布と珊瑚。渡すのはすべてが終わってからでいいと言っていた。取り立てが来ないのは、まだなにも終わってないからだ。
隠しようもなく、俺達は沈大姐と露泥無のおかげで命拾いした。……あの人達を信じるべきなのに、胸騒ぎを感じてしまう)
香港……。
あいかわらずだ。すべてが中途半端だ。だから俺は地面へと飛び降りる。川田が走るのをやめる。
俺は信じられるカラスを手で捕らえる。顔に寄せて向かいあう。
第二部完
次回 完結の『5-tuneⅢ 四神獣達のヒートアップ』
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