二十九の二 出発進行
文字数 2,419文字
……ずっと闇のなかにいた。
コウモリとフクロウが交互に来て、『あと何日』と笑うだけだった。『いよいよ明日だな』と言われても、なにも感じなかった。いきなり明かりが見えて、こっちに戻ってきた。
……戻ってない気もする
(寝るわけにはいかない。
静岡に行くべきだった。夏奈を呼びたかった。でも、もはや切羽詰まったリミットはない。横根が俺とともにいるかぎり、ゼ・カン・ユだった男は力を取り戻せない。まずは横根をみんなと合流させて、いよいよ夏奈を救う番だ。そう思いこもう)
(戻ってきてくれた横根の今後を考えないと。横根は前回の俺と似た状況だろう。使い魔によって弱った魂が、彼女を人間くずれにした。ならば箱を怯えさせれば人に戻せる。
違うよな。だって、いまの横根は四玉と関わっていない。玉を怯えさせたところで戻れない。ならば一度白猫に……。
鉄分の不足した頭で考えるのはやめよう。琥珀が背後を覗きこんでいるし)
大蔵司の横顔が見える。前だけを必死に見ている。ハンドルを握る手はぎこちなく、握りすぎて真っ白だ。
異形に名前で呼ばれた大蔵司が命ずる。
窓がすごい勢いで閉まっていく。
ひえええ
(エンジンがいきなり高まる。
片輪を浮かしながら軽自動車が国道を旋回する。
対向車のトラックのブレーキ音が聞こえる。
信号待ちを終えた車達を反対車線でごぼう抜きする。
対向車をセンターラインでかわす)
助手席のシートが倒れ、横根が俺へと這ってくる。クラクションと瞬時にすれ違う。小鬼が助手席に移動する。
次回「ドライブを楽しめる連中」