四十三の一 終わっているはずない
文字数 3,585文字
楊偉天が杖をかかげる。
師傅が破邪の剣をかざす。楊偉天も杖をおろす。朱色の光が群れとなり、俺達へと向かう。師傅の剣から鋼色の光が飛びたつ。
朱色の鳥達を交差するなり消し去り、楊偉天のもとへと突きすすむ。
楊偉天の姿が蜃気楼のように消える。鋼色の光も闇に消える。
上空から朱色の蛇達が俺と師傅を襲う。
護符が発動して、蛇は俺に触れるなり消える。師傅が剣を薙ぎ、残りの蛇達もかすんで消えていく。
楊偉天の笑い声だけが闇空に響く。
低空に赤い星がいくつもきらめく。
師傅が剣で闇をはらう。ぼた雪のように落ちてくる朱色の光を跳ねかえす。剣を逃れた光が師傅に張りつく。師傅は手でつかみとり、地面に叩きつける。
俺に触れた光はそのまま消える。
重たげな羽音。上空からの突進を、師傅が転がるように避ける。大カラスが降りたった足もとから煙があがる。
俺はぶん殴ろうとするが、焔暁はすぐに飛びたつ。その上空から、うねる光が襲う。
師傅の剣がはじき返そうとして、なにかにさまたげられる。師傅へと朱色の光が巻きつく。
楊偉天の声が下から聞こえた。
コンクリートの地面から、ゆっくりと浮かびあがる。
楊偉天はなおも呪いの言葉を唱える。師傅がよろめきながらも祓いの言葉を続ける。
上空を見上げる。なにも見えない。それでも俺は師傅の前へとでる――。
呪いと祓いに挟まれる。護符はどちらもはじき返すが、じわりと不快が押し寄せる。
竹林の声が横へとずれる。
結界に隠れていた業火が露わになる。
俺は灼熱に襲われる。
護符を握った左手を右手でさらに握りしめる。
焔暁の燃える爪を受けとめる。これは……、熱いなんてものじゃない!
俺と焔暁がたがいにはじきとばされる。
師傅が剣をはらう。目の前に鋼色の輪郭が発生する。
すべてを消し去る光の上で、大カラスが必死にばたついている。師傅が剣を向ける。
でも突風に焔暁が運ばれる。剣が発した光は、虚空を流星のように消えていく。
上空で雷鳴のごとき声が反響する。見上げると、大カラスが大カラスを爪で抱えて羽ばたいていた。
屋上の中央にかたまるように三人はいた。座りこむ横根。地面へはりつけにされた思玲。その二人を守るかのように、尻尾を凛とまるめた子犬がいた。
横根が子犬を抱きよせる。俺はみんなのもとへと駆けだす。
川田が声をしぼりだす。
俺は無表情の横根を見おろす。彼女は子犬の首を絞めあげていた。
子犬を奪いとる。
師傅の覇気なき声がした。
上空を大カラスとくすんだ鋼色の光が飛び交うなか、横根が立ちあがる。胸もとで珊瑚のペンダントが揺れる。
彼女も目だけを俺へ向けていた。
思玲が声を伝える。
Tシャツの胸もとが内側から切り裂かれる。
小鳥のタックルを受けた横根が吹っ飛ぶ。
駆けだした川田へと疾風が向かう。
小鳥が風に飛びこむ。流範は羽ばたきをわざとらしくゆるめて、笑いながら逃げる。
横根の目の前で、子犬が悲鳴をあげて転がる。青い小鳥が川田へと急降下する。空間に突撃する。
小鳥が地面をにらむ。
幼き声だけが舞いあがる。
桜井が吠える。横根の前へと飛び、
横根がきょとんとした顔で立ちあがった。目の前に浮かぶ小鳥を見つめる。猫のような素早さで両手に捕らえる。
次回「朝空遠からず」