ミカヅキたるミツアシ
文字数 813文字
3-tune
朝日が差しこもうとも、ミカヅキはまだねぐらにいた。面倒くさげに羽根をひろげる。
餌をあさるためだけに縄張りをめざす。
ゴンゲン様で羽根を休める。ハト達はミカヅキが同じ木立に来ても逃げやしない。小鳥の巣を荒らさないカラスと知っているから。
……小さい車から降りてきた女が境内を見わたす。ミカヅキはびくりと警戒する。
でもミカヅキに気づき手を振ったから、そういう人間はたまにいると気にするのをやめる。
カーカーと鳴きかえしてやる。車がプップッと返す。
小さい車は、クラクションを鳴らされながらもたもたと去っていく。
ひとり言が急に増えてきた。家族もなければ毎日に刺激もない。せめて緊張を与えてくれる野良犬や野良猫でもいれば、猫や犬のくせにカラスに話しかける奴とかいれば、ちょっとは面白かっただろうに。俺の羽根ならたやすく逃げられるだろうからな。
腹を満たしたミカヅキは、木かげでうつらうつらとする。
誰の声だろう。ミカヅキは夢うつつに思う。
誰の声だろう。ミカヅキは神社の木陰で眠りながら思う。
人間のガキどもが騒ぎだしたおかげで、ミカヅキは目を覚ます。子どもたちは舞台の上でカードをひろげる。ぼんやりとそれを見ながら、夢をかすかに思いだす。
とっくに抜け殻となったかみさんへとつぶやく。上空にでて、鉄紺色へと照らされる。ミツアシが見慣れた町を見おろす。
居あわせただけの幸運なハトや人の子におまじないをかけて、導きのカラスが西の空をめざす。
次回「アポなし異形あり里帰り」