ミカヅキたるミツアシ

文字数 813文字

3-tune



 朝日が差しこもうとも、ミカヅキはまだねぐらにいた。面倒くさげに羽根をひろげる。
行ったところで寝るだけだ
 餌をあさるためだけに縄張りをめざす。
デデポッポ

デデポッポ

 ゴンゲン様で羽根を休める。ハト達はミカヅキが同じ木立に来ても逃げやしない。小鳥の巣を荒らさないカラスと知っているから。
……?
キキー
……。
ビクビクビク!
 ……小さい車から降りてきた女が境内を見わたす。ミカヅキはびくりと警戒する。
 でもミカヅキに気づき手を振ったから、そういう人間はたまにいると気にするのをやめる。
カーカー
プップッ
 カーカーと鳴きかえしてやる。車がプップッと返す。
モタモタ
 小さい車は、クラクションを鳴らされながらもたもたと去っていく。

……。

俺は寝て過ごすだけだ

 ひとり言が急に増えてきた。家族もなければ毎日に刺激もない。せめて緊張を与えてくれる野良犬や野良猫でもいれば、猫や犬のくせにカラスに話しかける奴とかいれば、ちょっとは面白かっただろうに。俺の羽根ならたやすく逃げられるだろうからな。

 腹を満たしたミカヅキは、木かげでうつらうつらとする。

ふん。やっぱりお前は朝から昼寝だ
 誰の声だろう。ミカヅキは夢うつつに思う。
暇ならば西の向こうに行ってやりな。じゃあね、おかげで楽しかったよ
 誰の声だろう。ミカヅキは神社の木陰で眠りながら思う。






アチー!
自転車イレルト怒ラレルシ
ハヤクヤロウゼ
 人間のガキどもが騒ぎだしたおかげで、ミカヅキは目を覚ます。子どもたちは舞台の上でカードをひろげる。ぼんやりとそれを見ながら、夢をかすかに思いだす。
俺はでかけるぞ
 とっくに抜け殻となったかみさんへとつぶやく。上空にでて、鉄紺色へと照らされる。ミツアシが見慣れた町を見おろす。
……じゃあな。


カモタケツミノミコト!

 居あわせただけの幸運なハトや人の子におまじないをかけて、導きのカラスが西の空をめざす。
デデポッポ

デデポッポ



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