四十四の二 吹きさらしの五人
文字数 3,039文字
出入り口の上から、峻計が姿を見せずに笑う。
川田が見えない目で俺を見つめる。
ドーンが護布をくちばしで引きずる。
桜井の言うとおりかもしれないけど、横根が再び人に戻ったとして記憶が残っているだろうか。思玲もいない。あいつだけがいる。
俺は箱を突き刺そうとする。鋭利な刃先が錆びた表面にはじき返される。
ドーンが羽根でくちばしをぬぐおうとする。
軽快な羽音が舞いおりる。すらりとした大カラスが子犬に爪をかける。
真っ黒な目が俺をあざ笑う。
大カラスが川田を足にして飛びたつ。黒色の子犬が足をばたつかせ上空に消える。
白猫が緋色の布から飛びだす。首にぶら下がる赤い珊瑚が揺れる。
入口から大声がした。
俺の目前で対の炎が逃れる。俺は剣を右手に跳躍する。心と剣が一体だ。中空を薙ぎ、地へと降りる。
焔暁がよたよたと落ちかけ、かろうじて浮かぶ。
剣の光がおさまった屋上に、燃える足がふたつ、くすぶりながら転がる。
かかげただけだ。
それだけで透明の四つの玉が怯えだす。
俺は箱に飛びつき、あわててふたをする。
桜井が怒声をあげる。彼女が俺から飛びでようとする。
白猫が黒雲を見上げる。
峻計が落ちてくる。続いて川田とドーンも。
横根が緋色の布をくわえて引きずる。
川田がふいに低くかまえ、一陣の風に飛ばされる。
すべてが朱赤に染まる。
川田はうんざりしていた。
(うるさい。お前だって酔っぱらいだ。どうせ彼女を調子よくてサークルに半分も顔をださない適当女と思っていて、几帳面で女好きな俺では釣り合わないと思っているのだろ。
でも二人だけの小さな思い出があるんだよ。テラスから覗きこんでいた桜井、真顔で言いかえしてきた桜井、ハイタッチをやり直した桜井……)
次回「足掻けよ俺」