四の一 畜生どころか座敷わらし
文字数 3,440文字
俺が人間って分かってるなら、なんとかしてよ。スクールキャンパスはネクストステーションって教えてやったじゃん。
……そういや桜井があやしかった。もしかしてお姉さんは台湾人だったりして。桜井夏奈ってジャパニーズガールに会わなかった?
とにかく人に戻せよ
カラスがガーガーと鳴き声まじりに喚きたてる。俺の耳というか心には、ドーンの声がそのまま伝わってくる。
白猫があくびしながら伸びをする。手さきで目をこする。うっすらと開けた目をまたつむる。見た目も仕草も猫だが、声は横根だった……。
いやでも確信する。
黒い大きな犬が川田の声で牙をむく。俺達を見まわし、
それなら俺も知っている。子供の妖怪だ。
まだ細いままの瞳孔の目に、かすかに安堵が浮かんでいる……。
純白の猫の言葉と眼差しも、俺に少なからず救いを与えてくれた。
横根は立とうとしてつんのめる。猫の顔に照れ笑いを浮かべて四肢で立ちあがる。ぎこちなく王に寄っていく。
川田が吠える。また後ろ足で立とうとしてこける。ようやく四本足を地につける。
王が人の声で学生達を追いはらい、
心への声で俺達に怒鳴る。この人は説明もなく専門用語を口にする。おそらく川田達を隠した術のことだろう。
たしかに俺は比較的冷静なようで、周囲の目が気になる。俺は見えないのだろうけど、地べたのカラスに説教する女性。
川田のうなり声を無視して、王は扇を開き舞いはじめる……。思いだした。彼女はさっきも舞いをおさめた。
俺達はドーム状のガラスに包まれる。夏の光にきらきらと輝く。
空中にひびが入った。亀裂はひろがり崩れおちる。破片は氷みたいに溶けていく……。
西に傾きだした日差しが、王さんを背後から照らす。
川田をにらみながらペットボトルに手を伸ばし口をつける。
師傅も私も携帯電話など持たぬ。斯様なものは霊力を落とすらしい。戦いが続き、もはや伝令は一羽もいない。
ゴクゴク
とにかく聞け。私の兄弟子でもあられる師は劉昇と言われる。大陸も含めてもっとも力ある魔道士でおられる。もちろん師傅にも師匠がおった。そいつの名は楊偉天。奴は年を重ねるにつれ邪念にとらわれた。私が師傅に預けられてしばらくすると、ついに二人は袂を分けた。あの男はさらに妖術へと惹かれていく。人の心を読む術、人を操る術など。邪悪ではあるが、まだかわいいものだった
王が手のひらをテーブルに向ける。
光を浴びて、置いてあったウチワが粉々になる。
全員が固まる。
次は魔道具を使うからな。
あの男は人を式神に変えだした。おぞましい失敗をくり返したうえに、人間と融和性が高い生き物ならば成功するに至った。人と同じく知に富み、群れで動き個でもあざとく、騒々しく、残忍な生き物。いわゆる鴉だ……。
和戸は違うぞ。もうひとつの術でたまたまだ
はやく見つけてあげたいのに、庇護者のような思玲から離れられない。俺はその程度の元人間だ。
次回「つまり四神くずれ」