二十三の一 バトンタッチ

文字数 2,224文字

こんなところで、なんで寝ているんだ?
しかも一人だけだぜ。ひでえ奴だ
!!!!!

 喋り声に、俺はがばりと目を覚ます。

 スマホと鍵を握りしめていた。ここはどこだ?

(……朝方の空気の向こうに、見知った景色が広がっている。ここはお天狗さんだ)
おっ。ようやく間抜け面が起きたぞ
こいつだけ人に戻りやがったな
キョロキョロ

(声の主を探す。俺以外に誰もいない)

 
(誰かのリュックサックが転がっている)
ははは。寝ぼけていやがる。きょろきょろしやがって
(声は上からだ。見あげると空が青い――)
 ペンギンと子どもが浮かんでいた。
な、な、なんだよ

(俺はのけぞり、すぐ後ろが石段だったことに気づく……)

(俺はここを這いのぼってきた)
……。
琥珀。こいつ俺達が見えてやがるぜ
(ペンギンが冬衣装の子どもに言う。……空飛ぶペンギンに知り合いはないが、琥珀という名前は覚えている。パーカーのフードを深めにかぶった子どもが降りてきて、俺を覗きこむ)
哲人。僕と九郎を感じ取れるのか?
(九郎という名前もどこかで……。これは夢なんかじゃない)
おい、あのお方はどこだ?
(ペンギンも降りてくる。ずんぐりした体形で尻尾だけが長い)
いつまでも抜けた顔をしているな。思玲様はいずこだ?
“哲人”
“哲人”
(思玲……、スーリン、王思玲。目のきついかわいい女の子を思いだす。目のきつい美人な女性も思いだす。ぼんやりとじわじわと俺はすべてを思いだしていく)
龍は?


……龍は?

俺の目だから見えたけどな。

西伊豆沖の深い海に飛びこんだぜ。思玲様に力が戻られて、恐れて逃げたじゃねえよな

……。
 俺は首を横に振る。彼女はまだこれからだ。
琥珀……。俺はドロシーに会った
夏奈にも会った。使い魔にも、楊偉天にも会った。今日は何月何日の何時だ?
……寝ぼけているではないよな
(琥珀がポケットから真新しいスマホを取りだす)
時間は七時五十二分。日付は……

(よかった。俺は数時間寝ていただけだ。しかも記憶は残っている。しかも、こいつらが見える……。

 あの夜のように、また俺は人間くずれになってしまった。人の姿をしながら、人の目に見えぬ存在)

哲人! 思玲様はどこだって聞いてるだろ? 俺ら南極大燕は気が短いんだよ
(ペンギンがじれた声をだす。このペンギンが川田の部屋に出没した、大ツバメのチューラン)
(任務を完遂したのを早々に伝えないと、またぼろくそに言われちまう。

……あの方が見つけられねえ。また結界にこもっていやが――、こもられておられるのか?)

(昨夜の出来事も詳細に思いだす。思いだしたくないことも。俺は立ちあがる)

分からない。

(馴染みみたいに話す二体に、俺もそっけなく答える)

露泥無はどこ?

 黒猫も女の子もいない。ヨタカもナマズも。
もしかして貉のことか?
たぶん
あの夜に東京の公園にいた奴だ。オタっぽい女に化けて、哲人のポケットをあさっていた。またもや捕まえて、ドロシーのリュックに突っこんでやった
……。
逃れようもないまま魔道士のトラップを受けているから、そろそろ溶けたかもな
…………。
さすがは新月封じの小鬼だよな。チチチ
……。

……。

(大ツバメの笑い声を聞きながら、俺はポケットを探る。天珠が押しこまれていた)

(これは俺が――。露泥無は俺へとまた渡してくれた。急いでリュックを開ける)
ひどい奴ばかりだ
(うごめく闇が這いでてきた)
完全なる闇になれなかったら、とっくに消滅していた。究極形態は腰痛持ちなのに、箱を持ちあげてリュックサックにいれたというのに。善意の第三者を
喋りかたがうぜえんだよ
(九郎が闇へとドロップキックをして、露泥無が「ぐえっ」と悲鳴をあげる)

やめろ! 仲間だ


(俺にとっては頼るべき仲間だ)


露泥無。天珠で彼女達と連絡を取ってくれ

ヨロヨロ

僕にはまだ無理……。琥珀、頼む
僕の名を呼ぶな。古くさい連絡手段だし
(琥珀は生意気そうに俺から天珠を受けとる。……こいつにこそ感謝の意を告げないとならない。なのに、そんなシチュエーションでない。いずれまとめて礼を言おう。九郎がペンギンみたいな姿勢で着地する。首に長い尾羽根を巻きつける)
もしもーし
ス、思玲様。まさかあなた様がでられるとは思いもよらず
ゲゲ
(琥珀の目から大粒の涙があふれだす)
ご無事でなにより。琥珀めは、ようやく戻ってまいりました。九郎も一緒でございます。

……いえ、九郎はなにもしておりません。ドロシー様のご祖父が、独断でわたくしを開放してくださいました。

……はい、梁大人は孫と連絡がとれなくなったゆえ。ドロシー様もご無事で?

……それはなにより

(琥珀が鼻水をたらしながら、九郎へサムズアップする。どうやら、みんな無事のようだ。太陽が鎮守の林に差しこむ。……仲間はまだいる)
ケビンは峻計にやられて沢に落ちた。川田があとを追った。それを伝えてくれ
チッ

哲人が言うには、香港のケビンが――


……御意、御意

(あの人こそ無事だろうか。琥珀が舌を打ち、その旨を伝える。思玲の返答に神妙にうなずく)

ジロ

ずっと離れ離れだったんだな。連絡もしないで
(琥珀が天珠の表面を手で覆いながら、俺をにらむ)
哲人達の状況をうかがっておられる
……。
……。
(俺は祠宮を囲む林を探る。どこかで野良猫が笑って見おろしていないかと)
……四玉の箱を開けた。フサフサは猫に戻り去っていった。追えなかった。そう伝えて
……。
(嘘じゃない。みんなをだますわけじゃない)

 どこかで野鳥がきれいな声でさえずる。





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