二十三の一 バトンタッチ
文字数 2,224文字
喋り声に、俺はがばりと目を覚ます。
スマホと鍵を握りしめていた。ここはどこだ?
(……朝方の空気の向こうに、見知った景色が広がっている。ここはお天狗さんだ)
な、な、なんだよ(俺はのけぞり、すぐ後ろが石段だったことに気づく……)
(ペンギンが冬衣装の子どもに言う。……空飛ぶペンギンに知り合いはないが、琥珀という名前は覚えている。パーカーのフードを深めにかぶった子どもが降りてきて、俺を覗きこむ)
(九郎という名前もどこかで……。これは夢なんかじゃない)
(ペンギンも降りてくる。ずんぐりした体形で尻尾だけが長い)
いつまでも抜けた顔をしているな。思玲様はいずこだ?
(思玲……、スーリン、王思玲。目のきついかわいい女の子を思いだす。目のきつい美人な女性も思いだす。ぼんやりとじわじわと俺はすべてを思いだしていく)
俺の目だから見えたけどな。
西伊豆沖の深い海に飛びこんだぜ。思玲様に力が戻られて、恐れて逃げたじゃねえよな
夏奈にも会った。使い魔にも、楊偉天にも会った。今日は何月何日の何時だ?
(よかった。俺は数時間寝ていただけだ。しかも記憶は残っている。しかも、こいつらが見える……。
あの夜のように、また俺は人間くずれになってしまった。人の姿をしながら、人の目に見えぬ存在)
哲人! 思玲様はどこだって聞いてるだろ? 俺ら南極大燕は気が短いんだよ
(ペンギンがじれた声をだす。このペンギンが川田の部屋に出没した、大ツバメのチューラン)
(任務を完遂したのを早々に伝えないと、またぼろくそに言われちまう。
……あの方が見つけられねえ。また結界にこもっていやが――、こもられておられるのか?)
(昨夜の出来事も詳細に思いだす。思いだしたくないことも。俺は立ちあがる)
分からない。
(馴染みみたいに話す二体に、俺もそっけなく答える)
露泥無はどこ?
あの夜に東京の公園にいた奴だ。オタっぽい女に化けて、哲人のポケットをあさっていた。またもや捕まえて、ドロシーのリュックに突っこんでやった
逃れようもないまま魔道士のトラップを受けているから、そろそろ溶けたかもな
……。
……。
(大ツバメの笑い声を聞きながら、俺はポケットを探る。天珠が押しこまれていた)
(これは俺が――。露泥無は俺へとまた渡してくれた。急いでリュックを開ける)
完全なる闇になれなかったら、とっくに消滅していた。究極形態は腰痛持ちなのに、箱を持ちあげてリュックサックにいれたというのに。善意の第三者を
(九郎が闇へとドロップキックをして、露泥無が「ぐえっ」と悲鳴をあげる)
やめろ! 仲間だ
(俺にとっては頼るべき仲間だ)
露泥無。天珠で彼女達と連絡を取ってくれ
(琥珀は生意気そうに俺から天珠を受けとる。……こいつにこそ感謝の意を告げないとならない。なのに、そんなシチュエーションでない。いずれまとめて礼を言おう。九郎がペンギンみたいな姿勢で着地する。首に長い尾羽根を巻きつける)
ス、思玲様。まさかあなた様がでられるとは思いもよらず
ご無事でなにより。琥珀めは、ようやく戻ってまいりました。九郎も一緒でございます。
……いえ、九郎はなにもしておりません。ドロシー様のご祖父が、独断でわたくしを開放してくださいました。
……はい、梁大人は孫と連絡がとれなくなったゆえ。ドロシー様もご無事で?
……それはなにより
(琥珀が鼻水をたらしながら、九郎へサムズアップする。どうやら、みんな無事のようだ。太陽が鎮守の林に差しこむ。……仲間はまだいる)
ケビンは峻計にやられて沢に落ちた。川田があとを追った。それを伝えてくれ
チッ
哲人が言うには、香港のケビンが――
……御意、御意
(あの人こそ無事だろうか。琥珀が舌を打ち、その旨を伝える。思玲の返答に神妙にうなずく)
(俺は祠宮を囲む林を探る。どこかで野良猫が笑って見おろしていないかと)
……四玉の箱を開けた。フサフサは猫に戻り去っていった。追えなかった。そう伝えて
どこかで野鳥がきれいな声でさえずる。
次回「青い光とともに」
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