三の二 こいつの名は王思玲
文字数 1,634文字
俺は彼女が手に持つ扇をうかがいながら近寄る。そういや、でかい犬も椅子にうずくまった白猫も、足もとで騒いでいたカラスもいない。
箱の中では、きれいだった青い玉が他の三つと同じ味気ない透明な玉になっていた……。かすかに淡いスカイブルーが残っている。
物の怪にきく術が隠されていたら玉が作動できぬだろ。妖怪と化した貴様が実在するものに触れられるかを心配しろ。
しかし貴様は胆が座っているな。異形に堕ちたら誰もが取り乱す。気がおかしくものさえいるのにな。
やはり正味が物の怪ではあるまいな?
耐えられない。彼女と同じ目線まで浮かぶ。
それができるのなら、とっくに戻している。その玉に触られるのなら、とっくに木箱におさめている。
私は、この忌々しいからくりを作ったものよりはるかに力も術も劣る。要するに踏みつぶされたタンポポ程度に過ぎないからな。
……じきに我が師がこの地においでになる。その圧倒的なお力ですべては解決する。貴様のこともな。
それまでは、貴様みたいなものに助けを乞うしかないのだ
感覚で懐に入れると木箱が消えた。木札はポケットに入れようとするが消えない。どうやらポケットのない服らしい……。
財布やスマホはどこだ? 人間に戻ってから心配するしかない。木札も懐中にしまう。それも消える。
台湾で色々あってな。どうしてもこいつを触れなかった。
哲人が消えて、こいつの動揺はきわまった。俺は和戸駿だと、道行く学生どもに騒ぎだした。ゆえに少々荒い術で眠らせた。
この鴉がまさかの朱雀のなり損ないだ。和戸という奴は、よほどのへそ曲がりか?
カラスが転がり起きる。羽根を上にしてうずくまり、きょろきょろと見まわす。
彼女はカラスを避けてしゃがみ、犬と猫にやさしく声をかける。
次回「畜生どころか座敷わらし」