二十六の一 賑わいのはざまで
文字数 1,962文字
(アパートに帰ったら、さっそく勉学だ。川田の部屋に入りびたる習慣ができかけて、教授の指摘とおり、ちょっとたるんできた。言われなくても、バイトや遊びばかりではバランスとれないし。
後期試験も近い。せっかく前期で好成績を残せたのだから、週末はこもろう。バイトのシフトは早番だけだから、二日で二十一時間は専念できるな。集中してやるには丁度よい時間だ。年末年始は帰省して家事全般を母親に押しつけるから、一日十四時間)
三階の屋内テラスみたいなスペースに、女の子がいた。手すりから一階を見おろしている。クリスマスと正月にはさまれたモールであって、そこだけひっそりした空間だ。遠目にもかわいく感じて、なにげなく二度見する――。よく知っている子だった。
俺は立ちどまる。なんて声かけようかと考える。
桜井の背中に声かける。
俺はエレベーターに向かう。踏ん切りがついた。サークルはやめて勉強に専念しよう。
背中を向ければ声をかけてくる。
俺は立ち去る。
ラインの電話が鳴る。
また俺はエスカレーターを登る。彼女は同じ場所にいた。
桜井が一階を見おろしたまま言う。俺は片隅に気づく。買い物客は目をそらしていた。
こんなとこにいる場合じゃない。俺は三階へつながる反対側のエレベーターをめざす。
桜井は追いかけてくる。
俺はエレベーターを歩いて降りる。並ぶ二人連れの一段上で立ちどまる。
横に並んだ桜井へと告げる。
次回「あけおめ前の二人」