八の二 腹の内は見せないように
文字数 2,447文字
俺は服の中に手を突っこむ。
時間稼ぎの言葉しかだせない。見えない手を見えない襟からだし、見えない膝を抱えなおす。……都合よく思玲など現れない。絶望への時計が確実に動いている。
硬いものにはじかれて俺は転がる。顔を上げると巨大なくちばしがあった。……頭蓋骨の痛みがじわじわとひろがる。
俺はうつぶせになり、ぎゅっとかたまる。
横根の魂を押し倒す形になる。
俺はさらに強く腹を抱える。横根が俺から逃れようともがく……。頭を硬いもので挟まれた。乱暴に持ちあげられる。
激しく揺すぶられ、
白猫が飛びおりる。
木の箱まで落ちないように、身軽になったおなかを抱える。流範のくちばしが開き、俺は落とされる。
俺は横根の前にでる。でも横根はさらに俺の前に駆けだし、背中を丸めて毛を逆立てる。
それは言うな!
うんざりした顔になるけど、
横根はためらうことなく大カラスの背中に飛び乗る。
流範が羽根をひろげる。片側だけでも大人が横になったほどだ。ぎろりと見おろす。
俺とフサフサは命ぜられるままだ。野良猫が辟易とした顔で墓地へと向かう。俺はそのあとを追う。背後で飛びたった気配がした。
墓地への小道は街灯がうっすらひとつ照らすだけだ。
分かっているよ。あいつは耳がいいから気をつけろ。
(上空を見上げても。大カラスがどこにいるか分からない。
いざとなったら墓地を逃げまわる。思玲が来るまでラリーを続ける……。見事なまでに消極的作戦だ。それより、なんで護符が発動しない。お爺さんの霊の場合は、当初は俺に害意を持っていなかったからだろう。今回は敵意のかたまりなのに、お札は俺の保護を放棄している…………)
懐に手を突っこむ。木箱が手に当たるだけだ。奥まで手を入れる素振りをする……。
服の中をかきまわす。
絶望へのカウントダウンが一気に進む。
次回「墓場の異形と野良猫」