二十七の一 連れは無賃乗車
文字数 3,631文字
モグモグ、モグモグ
(人間だから腹が減る。乗り換えの駅でお握りふたつとサンドイッチ、お茶を買う。残金は多くないから、いつにも増して節約しないと。ゆっくり食べようとしたけど、発車前から最後の明太子にも手をつけてしまう)
琥珀の目線を感じる。
特急電車が動きだしたのが、十時十五分。
(シノからの電話によると、九郎がケビンと川田を見つけたそうだ。ただし彼の傷は重く移動に難儀しているらしい。薄情だけど、俺だけ単独行動して正解だった。あっちに行ったら、ケビンを助けるために動けなかった)
(静岡行きの特急電車はシートの半分ほどが埋まっている。浄財をくずす羽目になったが、帰りの電車代はまかなえる。グーグルによると富士駅で降りて海岸まで歩いて四十分だから、走れば二十分以内。その海も伊豆につながっているから、そこから呼ぶ――。
川田は静岡市出身だった。七実ちゃんは焼津出身だったような)
(それは以前に会ったときだ。なんで友達の彼女と番号の交換をしたのだろう。
……カフェで川田がトイレに立ったときに、日向七実から言ってきた。そして一度着信があった。勉強に集中していたから電話にでず、半日後にかけなおしたら彼女はでなくてそれきり)
通路側の自由席からにらむ。
琥珀はすぐに画像をたたむ。
楊が桜井ちゃんを見つけたあと、僕がホテルまで尾行した。
楊はあせっていて僕にも所用を押しつけた。だから思玲様にお伝えするのに半日以上かかってしまった。
……しかし思玲様は写真を撮り過ぎだ。勝手に削除できぬし
琥珀がまた画像を見せる。
(あの時の画像だ。薄暮の校内で地面に打ちのめされた、幼い俺。浴衣を着て、あまりにか弱い姿。こんなので戦ってきたなんて、我ながら同情してしまう。でも目はあきらめていない。強い眼差しで、スマホを向ける小鬼をにらみかえしている)
小鬼がまた操作する。
右隅でカメラをにらんでいる少女が、中学生くらいの思玲。見知らぬ子どもが二人いて、
楊偉天ともう一人の老人を囲むように劉師傅と張麗豪と知らぬ人間が二人。左端に知らぬ女性が一人。なにより背景のように、這って顔を画面におさめようとする巨大すぎる白い虎。
次回「連れと途中下車」