四十一の三 翼の四人

文字数 2,156文字

僕は戦わないよ。主様に禁じられているからね。

……なんで猫になっちゃったの? 鳥型の異形は人の肩で羽根を休められるのに

私のこと? って他にいないし
(幼い大ワシがきっぱり言う。だから横根と接しられたのか。九郎も俺の頭で休んだな)
ドロシーちゃんは声が大きいから苦手なんだ

バサバサ

(ハトぐらいの大きさの風軍が枝であくびをして、駐車場に降りたつ)
孫には異形と触れあえる資質が皆無だと、我が主が言っていたよ。

僕だけべたべた触られて、すごく嫌だったんだ。


危ないから、もっとどいて

 風軍がもう一度伸びをする。
ヤッパデカ

(小ワシが大ワシへと変げする。戦わなくとも、俺達の羽根になってくれる)

空からの狩りだな。俺のが雅よりすごいな

(川田が大ワシの背に飛び乗る。

 フワフワ

 俺も浮かびあがり風軍の上に乗る。万が一を考えて、白猫をしっかりと抱える)

行くよ
(ドーンが俺の頭に乗り、風軍が羽根をひろげる)
なんか中途半端だね。もっと小さいか、もっと大きいほうがいいのに
だよな

(横根が俺へと笑う。

 いまの俺は大人でも子どもでもない危うい体だ。傷もなき異形になれたのだから、文句は言わない)

(四神くずれと霊力が落ちた座敷わらしを乗せて、風軍が空に浮かぶ。目的地は、獣人への印が残る、ロタマモを消し去った空き地だ。

 時間を確認しようとして、リュックに手を入れたらスマホが消えた。なおさら気になる)

こいつも俺より速いし

ザンネンムネン

て言うか、ハイイロクマムシってなに?

(琥珀にスマホで検索してもらってある)
“不死身の肉体とグリズリーのごとき凶暴さをもつ、巨大な異形。

陸海空に地中に宇宙(本当かよ)どこにでも存在できる、星ランク五個の満月系。

知性は皆無。過去の伝説的陰陽士をもってしても、討伐はかなわなかった……”

♪♪♪
……きれい
だね
……。
(盆地の夜景がひろがる。みんな魅入ったように静かになる。俺は、駐車場で露泥無が言った言葉を思いだす――)
“ドロシーは妖魔に魂を奪われるのに、どれだけ耐えた? あの人間の土壇場の心の強さを知りたい”
(魂が持っていかれるとき、俺は地に(龍にだけど)足をつけて耐えた。陽炎のビルでは、横根はあがいでいた。必死に俺へと手を伸ばしていた。ドロシーは――


“ドロシーは瞬時にいなくなった”

“やっぱりな。

あの娘は幼いころの心の傷を背負ったままだ。そこで成長が止まっている。依存したい心が残っている。

それが松本に向かっている。だが彼女は松本を男として愛していない。祖父の庇護を受けられる魔道士のコロニー以外で、はじめて心を通えた人間だから、おさなごが親へと向ける感情を松本に抱いただけだ。


……もはやドロシーの居場所は松本だけだ。だけどお前は桜井夏奈を救うためにこの世界に来た。つまり、あの娘に居場所などそもそもなかった。


このまま消えるのが彼女にとって最善かもしれない”

“……哲人さん”
(この蹴りをいれたら5メートルほど吹っ飛びそうな痩せた黒猫の言い分が真実だとして、俺にどうしろと言うのだ)
“だが、ちがう捉え方もある。

過去になにがあったか知らないが、あの娘は閉ざされるほどに力を現す。たとえ魂だけで幽閉されても、松本の呼ぶ声にたやすく答えられるかもしれない。

そして、あの娘が放つ光は完全なる闇さえも消しかけた。つまり、いずれは僕ですら倒される存在だ。ゆくゆくは沈大姐や劉昇と並ぶ存在だ。


さすがに言いすぎか。でも、そこまででないとしても――”

……。

(そこで露泥無は言いよどんだ。俺は続きをうながさないのに、黒猫がまた口を開く)

“そこまでではないとしても、松本と組めばあの二人を越えるかもしれない。あの娘は龍をも倒す存在と化す。

そんな恐ろしきものを、奴らはわざわざ掌中に入れた”

“……。”
“オーバーだし”



(本堂での二人だけの時間。そんな導きを感じた。峻計達と対峙すると、なおさらだった。彼女といると無敵に感じる。俺は話題を逸らす)

“純度100の白銀弾って知っている?”
“気づいていたのか?

昨夜の森で魔道団の代名詞でもある純度47の白銀弾は、あの娘が手にすると異様なまでに輝いた。あれも証かもしれない。


完全なる白銀など伝説だけの代物だ。だが存在するとしたら、それこそ龍を倒す者が持つべきものだろう……”

“…へっ”
“龍を倒すべきもの……って、誰が誰を?”

“ん? 思玲が松本を呼んでいる。僕も彼女に話すことがあると伝えてくれ。……なるほど、どうやらケビンの記憶から――”

 
 リュックサックが一例だ。ドロシーと俺は一身になる存在。でもノリトウを授かり導きは変わった。……変わっていないのかもしれない。なんであろうと、夏奈とドロシー、二人とも助ける。そのほかを考える必要ない。

(ドロシーのリュックサックから護符をとりだす。ここからは常に手にしていよう。護布もとりあえずは俺がつかう。リュックをシャツの中に入れて、ベルトを締めなおす。

 盆地の明かりが減っている。空からだと、こんなに速いのか)

あそこで川が合流するよね。そこをまっすぐ行こう
 俺の導きに、風軍が盆地の切れ目である南へと羽根を傾ける。

 幼い大ワシが笑う。

やっぱりね。


さっきおまじないを口にしてから、行く方向が分かるんだ

(風軍もミカヅキの導きを受けていた)



次回「元祖松本軍団」

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