二十九の二 座敷わらしとコザクラインコ
文字数 2,406文字
横根が座りこんでいる。
俺は宙に浮かびあがり、木札を取りだす。
言われるそばから、なにもない空に黒い光が現れる。俺へと向かってくる――。まただ。避けると横根に当たる。
俺は護符をかかげる。申し訳ないけど、本旨をはずれて頑張ってもらうしかない。
浄化されたてだ。木札は黒い光を受けとめるが、持ち手は小さき妖怪だ。
俺と一緒に端かれて横根が悲鳴をあげる。肘をさする彼女の胸もとに木札を押しつける……。
手を伸ばし、彼女の頭上で受けとめる。衝撃で腕が後ろに折れそうだ。
右手を添えて打ち返すと、黒い光は結界に当たり消えていった。
上空から峻計が落ちてきた。両足できれいに着地して、上空へと身がまえる。飛びまわる青い小鳥を目で追っている。
俺はあいつの背後に飛びつく。その首筋へと護符を押しつける。
流範の魂を思いだす。
即座にはらいのけられる。峻計はおのれの首へと黒羽扇をかざす。かまえなおし、残った手で首の後ろをほぐす。
妖悪な気配があふれだす。結界の中の空気が変わる。
桜井が俺のもとへ飛んでくる。
俺は峻計へと向かう。あいつは術に集中している。俺達以外の誰もが見入られるほどに。
人である桜井が俺の横を駆ける。
あいつの頭上で、黒いよどみが巨大な渦を巻きはじめた。扇を俺達に向ける。
黒い渦も俺達へと顔を向ける。
護符を当てるどころではない。あいつに背を向け逃げようとするが、
暗黒に吸いよせられる。必死に飛びながら振り返く。渦の中心にひとつ目が見える。あんなのに吸われたら瞬時に消え去る。
すぐ横でもがくように飛ぶ小鳥を守るため、妖怪としての力が発動する。そんなの今さらだ。
峻計の笑みがとぎれた。
あいつが扇を上空へとかざす。
黒い渦も上へと顔を向ける。俺達を吸いこもうとする力が消える。桜井ともども勢いあまって結界まで飛んでいき、はじき返されて地面に落ちる。
ヒュー、ヒュー
あいつは鬼のもとへと駆けていく。
バキバキ、バキバキバキッ
落雷のごとき音とともに結界が崩れ落ちた。黒い渦が、またたく間にかき消される。風がすさぶり、屋上の中心へとなにかが落ちる。
術の竜巻がおさまっていく。
大きな剣を下へとかかげた男性が片膝を地につけていた。渦に舞っていた緋色の布が男の肩に降りる。
男が顔をあげる。剣を大きくはらう。
鋼色の光が屋上を覆うほどに特大な輪となり向かってきた。
次回「覇道は一方通行」