三十三の三 エースパイロット
文字数 4,086文字
横根が画面を耳にあてる。あわてて顔の前に戻す。青ざめた顔で操作をやりなおす。
あいつの声がすぐ背後からした。
あいつが俺をつかみあげる。
手を離しながら、俺を地面に叩きつける。
これでもかと痛い……。おのれより横根を守らないと。
峻計が俺へとヒールをかかげる。
あいつが俺を踏みつけようとして躊躇する。
俺はお怒りの護符をその靴へと向ける。峻計は片足で跳ねて避ける。
俺は浮かびあがり、峻計に向かう。あいつは軽やかなステップで護符を避ける。
俺はたくみに切りかえして、その背後を狙う。あいつはすでに信号の下まで離れていた。そこから俺を笑う。
俺は宙に浮かぶ、とみせかけてまっすぐに突進する。あいつは俺を黒羽扇で受けとめる。俺ごと扇をはらう。すぐに見上げる。
ばさりと空から気配が来て、誰もが暗闇を見上げる。夜空より黒い影が羽ばたいている。呼びつけられて早々に登場だ。
ツチカベが背後に浮かぶドーンを気にしつつ言う。
フサフサは姿も現さず、人に戻った横根に興味も示さぬままに立ち去ったようだ。
入れ替わりに、とてつもない気配が来た。峻計が舌打ちする。
小鳥が俺の横まで降りてくる。そこから低い位置を飛ぶ。おもいきり跳ねかえされる。はずみすぎて、俺の横まで転がる。
あいつが俺達へと黒羽扇を振るった。身がまえるが、黒い光は発せられなかった。
あいつは悔しそうに扇を見る。
桜井の笑いを、野良犬と向かいあう川田は気にいらなそうに無視する。
ツチカベが声をもらす。足から崩れてうずくまる。小鳥は羽根を動かさずに、俺へと戻ってくる。
子犬が中空に牙を向ける。
ああ。
(手負いの獣が、見えないあいつを獲物として追っている……。危ないな、あきらめたと見せかけたのかよ。……壊れた黒羽扇のため姿隠しは不完全なのかも。それでも川田しか見つけられない。あいつが慎重で救われた)
スイスイ
俺は川田の頭上に浮かぶ。
桜井が横根の頭に飛び乗る。
ドーンが詰所の屋根で羽根を休めながらツチカベを笑う。
桜井が横根の肩に降りる。
ドーンが翼をひろげる必要もなく、ツチカベは去っていく。雑談めいた俺達に攻撃の意思がないと気づいたらしく、あわてもしない。点滅信号に照らされながら、人を囲む異形の集団へと振り向く。
野良犬は側道へと去る。俺達五人だけとなる。
たしかにあいつは完全な力でなかったが、それでも俺達だけで峻計を追いはらった。
次回「頼るべきは」