四十一の二 老祖師
文字数 4,189文字
楊偉天が俺の目を見上げる。俺の手を握る。
呆気にとられていた俺は、ようやく老人の手を振りはらう。
楊偉天が見上げた空を俺も見上げる。
上空に叫ぶ。
楊偉天が杖を天にかかげる。
杖の先から小豆色の光が雁行となり、上空へ向かう。ついで杖さきで地面を叩く。
『読まれぬためにバリアしていて、消すなり叱責か』
『キッ、気づくはずないだろ』
『そいつといまだ契約中だ。姿を現せない』
『それに、あんたはさっきのあんたではないだろ? 厳密に言えばな。キキキ』
楊偉天が杖をかざす。そして地面を叩く。
コンクリートの駐車場が揺れる。俺は耐えきれず地に手をつける。老人が俺を見おろす。
『ホホホ、癇癪をおこさないでおくれ』
『時間がないのは、みんな一緒ってことで』
楊偉天が使い魔達へと杖をかざす。
使い魔達の抗弁を無視して、楊偉天が杖をおろす。
楊偉天が杖をあげる。そしておろす。
楊偉天が杖をおろす。
肩のシャツが裂け血が流れだす。傷はすぐに消えていく。
楊偉天が杖をおろす。数メートルもあるいばらが、双頭の蛇となり襲ってくる。
俺は護符をかかげる。かまわずに蛇と化したいばらが巻きついてくる。
護符がさらに強く発動する。それを受けて、いばらも強く発動する。
とげが体中に突き刺さる。俺は絶叫する。身動きもできないまま地面に倒れる。
俺の命令に、いばらの鎖がほどけて落ちる。受けた傷はふさがっていく……。
俺はいばらを拾い立ちあがる。俺の行動をしげしげ見つめる老人へと振りかざす。
いばらが鞭となり、楊偉天が吹っ飛ぶ。
人を鞭で叩いたことに、すでに後悔しはじめている。
一年生の冬。吹き抜けのテラスから一階を見おろしていた桜井。俺へと期待の目も向けなかった桜井……。記憶の断片が蘇る。
結界へとむちを振りおとす。
力が落ちてきて、へこみもしない。ふざけるな。
もう一度振りおろすと結界は縦にひび割れ、増殖しようとしながらはらはらと消えていった。俺の命令を受けいれたいばらも朽ちて、手もとから崩れて消える。
みすぼらしいコウモリとフクロウの化け物が、よろよろと宙に浮かびあがる。
桜井の叫び声に上空がどよめく。楊偉天さえ空を見上げる。
次回「一緒に飛ぶに決まっている!」
カツカツカツ…
カツカツカツ…