一の一 フォーチュンな生け贄達
文字数 2,039文字
1-tune
桜井が
更新されないSNSに送ったのは六時間前で、彼女からの連絡はようやく今だ。夏休みが数日過ぎた午後三時。俺は川田のアパートにいた。
サークル二年生のグループラインにだった。
川田が憤 っている。
所属するテニスサークル名『4‐tune』が幸運をあらわす英語が語源であるのを(頭の4は春夏秋冬を意味する)、さらにいじられるとつらい。
十日後の合宿を言っている。
布団に寝ころがっていた川田が、でかい体をのっそり持ちあげる。
こいつは予備校時代からのきれいな彼女がいるくせに、サークル内では横根瑞希が好みだ。彼女は小柄でかわいいが、俺は桜井と終日並んで歩く日に焦がれる。刈りこんだ頭も石鹸で洗う川田とは好みは違う。
……桜井と横根の組み合わせは珍しいよな。いつもは三石とセットなのに。半年ほど前、勇気を絞りまくり彼女を誘ったときも、
断られた。
半日以上部屋に閉じこもった身には、八月間近の午後の外気は異なる世界の鉄槌のようだった。
大通りにでたところでスマホが鳴りだす。三石からだ。
『横根も? ……あの土産ヤバいかも。夏奈もちょっとおかしいし。
二日目の夕方、屋台村でお爺さんが夏奈をじっと見ていたのには気づいたんだけどさ、翌朝ホテルをでるときにそいつが手土産持って現れたんだ。夏奈がノーサンキューって押しかえそうとその箱に触れた途端、無表情になって受けとったのよ!
お爺さんは夏奈の手をしばらく握って、横で見ててもキモいのに、夏奈は逃げようともしないし……。
気味悪くなってきて、海外だし怖くもなって。
だからその日の予定やめよか悩んだけど、せっかく水着買っ
二人は同じ年のいとこ同士だ。三石(長野県出身)の父が、桜井(千葉市近郊在住)の母の兄だ。
ドーンが俺の顔を覗きこんできて、思いきりびっくりする。
小柄でもバスケサークル掛け持ちのドーンは、野球部のファーストだった川田(主将でもあった)より圧倒的にテニスがうまい。高校時代の大会メンバーに普通科以外で唯一入りこんだ俺でさえ、なめているとゲームを取られかけた。
川田が鍵を手わたす。二人の身長差は20センチぐらいある。俺はそのほぼ真ん中。
三人並んで、ありふれたままの街路を歩きだす。
次回「女子二人は石段で待っていた」