『八甲田山 死の彷徨』新田次郎(新潮文庫)(2024.9.18)

文字数 447文字

 う~んっ、重厚。軽めの本を読むことが多かったので、圧倒された。

 実際に起きた遭難事件を丹念に取材して、まるでその場にいたかのようなリアリティをもって描く筆力に唸ってしまう。一人一人の心理描写、八甲田山の厳寒の描写が抜群に上手いことに加え、「死の彷徨」の要因となった前段、そしてその後の後段が、淡々と描かれることで、より八甲田山で起きた事件の暗さ異常さが際立つ。

 最初は読み難いと思ったものの、気づけば止まらなくなっていた。

 亡くなった方々の無念さ、を思うと心が痛い。遭難は自然の力とも言えるが、思い返せば、人間の心模様こそがすべての要因と言える。

 会社における指揮系統や、仕事に臨む準備や意識と知識の共有など。現在の自分自身に置き換えて考えさせられる部分も多くある。

 戦争ではなく訓練で起きた惨劇を、ここまで掘り詰めて描いた新田次郎の執念を感じる名作である。現代から考えると、時代錯誤、異常というシチュエーションであるけれど、時代性を取り払えば、実に普遍的な内容だ。一読の価値あり、だと思う。
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